起業・創業支援

夫婦での給与(役員報酬)の配分(割合)をどう考えるか!?

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社長の配偶者が事業を手伝うというケースはよくありますよね。

会社設立当初はあまり大きい金額の役員報酬を支払えず、場合によっては配偶者の給与はゼロということも多いと思います。

しかし事業が順調に成長し利益も大きくなってきた際にその利益を給与としてどのように配分するかが重要になります。

法人税の税率と所得税の税率・社会保険料率まで考慮して最適な給与の設定をしたいですよね。

今回は夫婦での給与(役員報酬)の配分(割合)をどう考えるかについて解説したいと思います。

まずは役員報酬に該当するかを検討

まず前提として原則的な考え方を理解しておきましょう。

役員や役員の親族の給与は法人税法上で厳しく制限されています。

役員報酬であれば原則的には定期同額給与として期首から3か月以内の変更のみ認められ、それ以降は毎月同額を支給しなければなりません。

1年間は同額で変更できませんので慎重な決定が必要ですね。

そして役員になっていない場合もみなし役員になるかどうかの検討が必要です。

詳細な解説は省略しますが社長の配偶者であれば「経営に従事している」と認定されると登記された役員でなくても役員とみなされる「みなし役員」になります。

「経営に従事している」かどうかの判断は明確な基準はありませんが以下のような決定を行っている場合は「経営に従事している」と認定され「みなし役員」になる可能性が高いです。

  • 売上や仕入の金額の決定
  • 取引先との取引の決定
  • 重要な契約に関する決定
  • 銀行借入の決定
  • 従業員の採用・退職の決定

原則は仕事の内容に見合った給与を支給

さて、いよいよ具体的な給与の金額の検討ですが原則は仕事の内容に見合った給与を支給することになります。

より正確に言うと仕事の内容に見合った給与以上の給与を支給すると税務署に否認される可能性があるということですね。

これは法人税法上で規定されています。

法人税法施行令 第70条 過大な役員給与の額

一号イ 内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与の額が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額

会社の利益の状況、従業員の給与の額、同業他社や規模が似ている他社の給与の額と比較して高いと認定されると税務署に否認される可能性があるということです。

明確な基準がないため実務上非常に慎重で難しい判断が求められますが社長の給与の場合は周りの経営者仲間と同じぐらいの金額であればまず問題になることはないでしょうね。

といっても具体的に役員報酬の金額の話をすることもあまりないかもしれないので難しいですよね。

役員でなく、みなし役員にもならない配偶者の給与についても法人税法上で規定されています。

法人税法施行令 第72条の2 過大な使用人給与の額

内国法人が各事業年度においてその使用人に対して支給した給与の額が、当該使用人の職務の内容、その内国法人の収益及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該使用人の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額とする。

こちらも基本的には役員報酬と同じ考え方です。

ただこちらは従業員給与と比較しますので例えば一般の事業会社の同じ年齢、同じ役職の給与ということでだいたいの相場が分かると思いますのでそれを参考にすると良いと思います。

社長と配偶者の給与配分で考慮すべきその他のポイント

原則的な考え方をご理解いただいたうえでいよいよ本題です。

社長と配偶者の給与配分をどのようにすれば一番得なのか、様々なポイントを検討しましょう。

所得税

まずは所得税ですね。

所得税は超過累進課税という方式で、ざっくりいうと給与が高くなると税率が上がるという仕組みになっています。

この点だけ考えれば社長と配偶者で半々で分けた方が得ということになりますね。

さらに社長と配偶者で半々で分けると給与所得控除がそれぞれで使えることにもなりますのでさらにお得です。

所得税の計算の中でさらに細かい論点を見ていくと次のポイントも検討すべきです。

配偶者控除

配偶者には扶養の範囲内で給与を支給し、社長に残りを寄せるという方法もありますが配偶者控除が最大38万円なのでそれほどの節税効果は見込めません。

さらに社長と配偶者で配分する総額が大きいと社長に寄せた際に控除が小さくなってしまいます。

配偶者特別控除での適用を検討する際はさらに複雑になりますので注意が必要です。

社長と配偶者で配分する総額がいくらかにもよりますが、総額が少なければ配偶者控除による節税効果が上回る可能性もありますね。

基礎控除

基礎控除については社長と配偶者で配分する総額が大きいと社長に寄せた際に社長の基礎控除がゼロになってしまうということもあります。

基礎控除は、本人の合計所得金額に応じてそれぞれ次のとおりとなりますのでご注意ください。

ちなみに注意点として、上記の表の後継所得金額とは給与収入(額面)ではなく所得金額です。

収入が給与のみの場合は給与収入から給与所得控除を引いた給与所得で判定しますので「給与収入2,695万円-給与所得控除195万円=2,500万円」を超えると基礎控除がゼロになります。

住宅ローン控除

住宅ローン控除も見逃せません。

社長のみが住宅ローン控除を適用している場合、社長と配偶者で半々で分けると住宅ローン控除を使い切れない可能性があります。

一方で自宅を共有にして社長と配偶者それぞれで住宅ローン控除を適用している場合は給与の配分も社長と配偶者で半々にして住宅ローン控除をフル活用したほうが得になりますね。

特にこれから住宅ローンを組むことを検討されている場合は共有にしてそれぞれで住宅ローン控除を適用することもご検討ください。

ざっくりシミュレーション

詳細なシミュレーションはそれぞれの事情に合わせてしていただいた方がよいですがざっくりシミュレーションの結果だけお伝えしますね。

シミュレーションの詳細は省略しますが結果の概要は以下の通りです。

総額1,000万円を社長と配偶者で配分する場合

「社長と配偶者で半々」と「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」、いずれも大きな差はありません。

住宅ローン控除がある場合は「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」の方がやや得になると思われます。

総額2,000万円を社長と配偶者で配分する場合

「社長と配偶者で半々」の方が「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」より年間で数十万円得になる試算です。

他の所得の状況や生命保険料控除などの所得控除の状況により得になる金額は変動しますが「社長と配偶者で半々」の方が「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」より得になるという結果は変わらないはずです。

住宅ローン控除がある場合でもどちらのパターンも控除上限満額で適用できるはずですので差は発生しません。

総額3,000万円を社長と配偶者で配分する場合

「社長と配偶者で半々」の方が「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」より年間で数百万円得になる試算です。

2,000万円パターンと同様に、他の所得の状況や生命保険料控除などの所得控除の状況により得になる金額は変動しますがかなり得になる金額が大きいですね。

数百万円というとだいぶ幅がありますが400万円程度の差が出る可能性もあります。

それだけ所得税の超過累進税率が高いということですね。

もちろん住宅ローン控除がある場合でもどちらのパターンも控除上限満額で適用できるはずですので差は発生しません。

注意点

総額2,000万円を超えるパターンからは「社長と配偶者で半々」の方が大きく得になるわけですが注意点があります。

それは記事の冒頭でも記載した「仕事の内容に見合った給与」になっているかという点です。

総額3,000万円で考えると社長と配偶者ともに年収1,500万円になります。

社長の方は問題ないかと思いますが配偶者はどうでしょうか?

副社長的なポジションで経営にもタッチしているようであれば問題ないかもしれませんがいわゆる「社長のお手伝い」的な感じだったり、秘書的な業務だけだったりすると税務署から否認される可能性があると思われますのでご注意ください。

社会保険

社会保険は所得税のような超過累進税率ではなく料率は一定です。

逆に上限がありますのである一定のラインで保険料の上昇が止まります。

健康保険料は報酬月額1,355,000円が上限、厚生年金保険料は報酬月額635,000円が上限でそれ以上の給与になっても保険料は上がりません。

なので基本的に配分は社長に寄せた方が得になりますね。

そして配偶者を扶養の範囲内(年収130万円)の給与にして配偶者の保険料をゼロにした方がいいですね。

社会保険料は会社と個人で折半なので個人負担は大体給与の15%程度ですが、中小企業では会社と社長は一体ですから実質30%負担と考えてもいいですね。

そうすると所得税や法人税より負担が大きいケースが多く、一番ケアしなければならないのは社会保険ということになる可能性が高いです。

特に総額1,000万円を社長と配偶者で配分する場合は配偶者を扶養の範囲内(年収130万円)の給与にして配偶者の保険料をゼロにするメリットが大きくなります。

ふるさと納税

これは所得税や住民税の扱いですが別途考えてみてもよいかと思います。

ふるさと納税の仕組みでは所得税と同じく収入が増えるほど寄付できる割合が増えていくことになります。

ということで社長と配偶者で配分する場合、半々にするよりも社長に寄せた方がふるさと納税の寄付上限は大きくなりますね。

ざっくりシミュレーション

寄付上限について詳細なシミュレーションはそれぞれの事情に合わせてしていただいた方がよいですがざっくりシミュレーションの結果だけお伝えしますね。

シミュレーションの前提は給与収入のみ、所得控除は社会保険料控除・配偶者控除(適用あれば)・基礎控除(適用あれば)のみとしています。

総額1,000万円を社長と配偶者で配分する場合

「社長と配偶者で半々」の場合、お一人が約6万円でお二人の合計が約12万円になります。

「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」の場合、社長が約14万円で配偶者はゼロになります。

いずれもそれほど大きな差はありませんね。

総額2,000万円を社長と配偶者で配分する場合

「社長と配偶者で半々」の場合、お一人が約18万円でお二人の合計が約36万円になります。

「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」の場合、社長が約52万円で配偶者はゼロになります。

結構差が開きますよね。

総額3,000万円を社長と配偶者で配分する場合

「社長と配偶者で半々」の場合、お一人が約40万円でお二人の合計が約80万円になります。

「配偶者が扶養の範囲内で残りが全額社長」の場合、社長が約100万円で配偶者はゼロになります。

こちらも大きな差が開いています。

児童手当

ここからはすべての人に当てはまるわけではない限定されたケースになりますので考慮すべき方は検討してみてください。

まずは児童手当です。

児童手当は所得制限等がありますので社長に給与を寄せると所得制限によって児童手当が制限されることになりますのでご注意ください。

以下、内閣府のホームページからの引用です。

高額療養費

さらにレアケースになりますが高額療養費も注意が必要な可能性があります。

高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。

自己負担限度額は70歳未満の場合は標準報酬月額に応じて区分されています。

報酬月額が高ければ高いほど自己負担限度額が高くなり、高額療養費が受給しづらくなります。

社長と配偶者それぞれが被保険者になっていればそれぞれで限度額を判定することになります。

社長だけが被保険者になっていて配偶者が扶養になっている場合は合算で限度額を判定することになります。

区分は5つしかないので少し月額報酬を上げ下げすることで区分が変更になると自己負担限度額が大きく変わることになります。

以下が協会けんぽのホームページから引用した表ですのでご確認ください。

医療費が多くかかることが予想される方の報酬を低く抑えておくことで高額療養費を受給できる可能性が上がるという対策があり得るかもしれません。

また区分ギリギリのライン上の報酬であれば少し下げて区分を下げておくという対策もあり得るかもしれませんね。

出産手当金

さらにさらにレアケースになりますが出産手当金も考慮しておいた方がいいケースがあります。

出産手当金は社長でも(役員でも)受給できますのでね。

出産手当金の1日当たりの金額は以下の算式で計算されます。

【支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)

そうです、標準報酬月額が算定の基礎になりますので出産が想定される方の給与を多めに配分しておくと出産手当金も大きくなります。

出産手当金は出産日(出産が予定日より後になった場合は、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休み給与の支払いがなかった期間を対象として支払われます。

出産が想定されている場合はこの点も考慮しておくとよいかもしれませんね。

その他

その他にも保育園の保育料、高校生の授業料無償化、子育て医療費助成、放課後等デイサービス(障害児デイサービス)、特別児童扶養手当やお住いの自治体の各種補助制度なども所得制限があったりしますのでそのあたりも慎重に検討が必要ですね。

まとめ

社長と配偶者の給与配分を考える際の原則は「仕事の内容に見合った給与を支給する」ということです!

その中で皆様それぞれの置かれた状況に応じて考慮すべき点を考慮しましょう。

正直なところ各種のポイントをシミュレーションするのは相当複雑で大変な作業になります。

ある程度のところで割り切りは必要かと思いますが税理士や社会保険労務士などの専門家と相談しながら最適な金額を検討しましょう!

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