事業を行うにあたり法人を設立した場合、自分(社長)の給与をいくらにすべきか悩まれる方も多いと思います。
今回は法人を設立して1期目の役員報酬についてのお話です。
いつまでに決める必要があるか
役員報酬は期首から3か月以内に決める必要があります。
これは設立1期目も同じです。
つまり設立から3か月以内に決める必要があるのです。
どのように決めればよいか
いくつかポイントがありますがまずは役員報酬を支払わないとしていくらぐらいの利益が出るか試算しましょう。
売上と原価はご自身でも予想できると思います。
予想が難しいのは経費(販管費)の部分ですね。
初めて会社経営される方は思いもよらない経費がかかってしまったり、逆に経費にできるものを経費にし忘れてしまったりと、経費の考え方は難しい部分があります。
一般的な会社の経費を簡単に箇条書きにしますのでチェックリスト替わりに使ってみてください。
- 事務所家賃
- 自宅家賃(自宅でも仕事をしている場合は事務所家賃と同時計上可能)
- 電気、ガス、水道(自宅でも仕事をしている場合は事務所のものと同時計上可能)
- 携帯電話、固定電話、ポケットwifi、インターネット
- オンラインサービス、クラウドサービスなどのシステム利用料
- 電車、タクシー、駐車場、高速代など交通費関係
- 複合機などのリース代
- 車の減価償却費、リース代
- ガソリン代、自動車税、自動車保険、車検代などの車両費関係
- 取引先との飲食費(交際費・会議費)
- 取引先へのお祝い、差入れ、お中元、お歳暮などの贈答品
- PC、机、いす、棚などの事務所備品
- 事務用品、消耗品
- 書籍、研修、セミナー代
- 広告宣伝費
- 会社設立時の登記関係費用
- 税理士報酬 などなど
売上から原価を引いて粗利を出して、そこから上記の経費を引いた残りがいくらあるかを計算しましょう。
その残り(=利益)の金額を丸々報酬として計算してもよいです。
社会保険料の会社負担分が追加の経費として発生しますので注意が必要ですね。
報酬の約15%が会社負担の社会保険料と考えていただければよいと思います。
そうすると利益の87%ぐらいを役員報酬に設定すれば社会保険料の会社負担分を考慮しても赤字にならないことになります。
銀行から融資を受けている(受ける予定がある)場合
銀行から融資を受けている又は受ける予定がある場合はその返済金額を考慮する必要があります。
役員報酬を払った後、さらに法人税を払った後の残りから借入金の返済をすることになりますので注意しましょう。
ざっくりと計算するのであれば「借入金の年間返済額÷75%(1-概算法人税率25%)」が税引前利益になるように役員報酬を設定する必要がありますね。
融資をける予定がある場合は予定の年間返済額分の利益を確保しておかないと審査が通る可能性が低くなってしまうということです。
社長が住宅ローンなどを借りる予定がある場合
会社が融資を受ける場合はその返済資金が利益として会社に残る必要がありますが、社長が個人で住宅ローンを借りる場合は社長にある程度の収入があることが必要になります。
住宅ローンの申し込み時に源泉徴収票、最終的には「住民税税額決定通知書」や「住民税納税証明書」「住民税税額決定通知書」や「住民税納税証明書」を提出する必要がありますので社長個人に収入(所得)がないと審査が通りません。
このあたりのバランスも考慮して役員報酬を決める必要がありますね。
会社の利益が多く出すぎる場合
会社の利益が多く出すぎる場合は利益のすべてを役員報酬に設定してしまうと所得税の負担が大きくなってしまいますので注意が必要です。
法人税関係の実効税率は約30%程度ですが、所得税関係は所得税の最高税率が45.945%(復興税含む)、住民税が10%ですのでトータル55%オーバーになります。
社会保険料の負担増加も考慮すると役員報酬は出来る限り小さくした方がトータルのキャッシュアウトが小さくなるという試算になってしまいます。
ただ、社会保険料のうち厚生年金保険料は払う金額が多くなれば将来のリターンも大きくなりますので社会保険料を多く払うことが一概に損とも言えません。
個人的な意見ですが給与所得控除の頭打ちになるところまで(平成31年分であれば年収1,000万円)を上限として考えるのがよいと思います。
それ以上の支給は明らかに税金・社会保険料の負担が不利になりますのでお勧めしていません。
株主が社長だけではない場合
これまで株主=社長一人の前提でお話ししましたが株主が複数いる場合は所得税の負担が大きくなっても役員報酬として受け取った方がよい可能性もあります。
役員報酬として払わなかった部分は法人税控除後、会社の内部留保となり、株主のものになります。
役員報酬として払わないと将来的には自分のお金にならず株主に配当することになる可能性があるのです。
株主=社長一人である場合は法人税と所得税の比較で所得税を多く支払うよりは法人税を少なく支払って会社に残しておく選択肢もありますが、株主が複数いる場合は役員報酬を出来る限り多めに設定してご自身の財産の増加を図ることの検討も必要ですね。
決定した役員報酬を払えない場合
売上と原価、経費の予測をして決定した役員報酬。
実際に経営をしてみると思うようにいかないことの方が多いと思います。
そんな時に役員報酬を支給するお金がなかったらどうすればよいでしょうか。
そのような場合は役員報酬を未払いとしても実務的には差し支えありません。
ただしあまりに長期間未払いで、資金繰りの状況をみながら任意のタイミングで任意の金額を支払っている場合などは、税務調査が入った際に当初決定した役員報酬が法人税計算上の経費として認められない可能性がありますので注意が必要です。
(法人税計算上の経費として認められない場合も所得税は課税されます)
設立から3か月以内に役員報酬を決めていなかった場合
役員報酬を3か月以内に決めていなかった場合で4か月目以降に決めたらどうなるのでしょうか。
法人税法の原則的な扱いでは4か月目以降に決めた役員報酬は経費として認められないことになってしまいます。
役員報酬を払って所得税を納めなければならない一方、法人税計算上の経費になりませんので役員報酬分の利益があるものとして法人税も納めることになっていまします。
これは個人的な見解ですが設立から3か月は全く活動しておらず、4か月目以降に活動を開始し、活動開始とともに役員報酬を払っている場合など、明らかな節税のために4か月目以降に支給開始していると見えなければ設立1期目については4か月目以降の役員報酬の決定も認められる余地はあるのではないかと思います。
ただしあくまで個人的な見解ですので安全確実に役員報酬の支給開始をされたい場合は1期目の途中で決算期変更をして1期目を終了させて、2期目の期首から3か月以内に役員報酬を支給開始することを検討しましょう。
役員報酬の決定の際は株主総会議事録を残そう
社長お一人の会社の場合も役員報酬の決定、変更の際は株主総会での決議が必要になりますので株主総会議事録を作成、保管することに注意しましょう。