税理士業務

税制対応と債権者保護手続きの関係!

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より有利な税制を適用するために会社法上の手続きを取ることがあると思います。

その際に債権者保護手続きが必要になるものがあると一定の期間を要するため注意が必要です。

債権者保護手続きとは

会社法は、会社の債権者の利益を保護する目的で、特定のケースにおいて、事前に官報に公告、個別に催告し、債権者が異議を述べることができる一定の期間を確保しなければならないこととしています。

これを債権者保護手続きといいます。

債権者保護手続きが必要になるケース

資本金・準備金の減少(会社法449条)

資本金や準備金を減少させるとその後、配当で会社の財産を外部に流出することが可能になります。

そうなると、債権者が債権を回収できなくなる可能性が高まるため、債権者保護手続きが必要とされています。

ただし、以下の場合は会社財産が社外に流出するわけではないため、債権者保護手続きの必要はありません。

  • 減少する準備金の額の全部を資本金とする場合
  • 資本の欠損填補の範囲内で行われる場合

吸収合併・新設合併(会社法789条、799条、810条)

合併をすると消滅する会社があり、消滅会社の債務は合併する先の会社に引き継がれますが、債務が承継される会社の財産状況等によっては、債権回収が困難になるリスクがあります。

吸収合併をする場合には、消滅会社の債権者と存続会社の債権者の双方に対して、債権者保護手続きが必要になります。

新設合併をする場合には、その段階では新設会社が存在しないため、新設会社側の債権者保護手続きは不要ですが、消滅会社の債権者には必要になります。

株式交換・株式移転(会社法789条、799条、810条)

株式交換・株式移転では、株主が変わるだけで債権者に不利益は生じませんので、債権者保護手続きは、原則として不要です。

ただし、新株予約権付社債にかかる債務を株式交換完全親会社・株式移転設立完全親会社が承継する場合には、完全子会社の新株予約権付社債権者は、異議を述べることができます。

また「交換対価が完全親会社の株式等以外の場合」と「新株予約権付社債にかかる債務を完全親会社が承継する場合」についても、株式交換完全親会社の債権者も異議を述べることができます。

株式交換、株式移転では上記のケースに限り債権者保護手続きが必要になります。

吸収分割・新設分割(会社法789条、799条、810条)

会社分割では、分割する側の会社は消滅しないので、債権者は分割会社に請求することが可能です。

そのため、分割会社の債権者に対しては、常に債権者保護手続きが必要というわけではありません。

ただし、分割会社の債権者のうち、債権が分割承継会社に承継され、分割会社に債務の履行を請求できなくなる債権者に対しては、債権者保護手続きが必要です。

また、分割会社が分割対価を株主に交付する、いわゆる分割型分割の場合も、分割会社から財産が流出するため、分割会社の債権者に対して、債権者保護手続きが必要となります。

一方、承継会社に関しては、吸収分割の場合は、債務の承継により財産流出の可能性があるため、すべての債権者に対する債権者保護手続きが必要になります。

なお、新設分割では、その段階では新設会社が存在しないため、新設会社側の債権者保護手続きは不要です。

組織変更(会社法779条)

組織変更とは、株式会社が合名会社、合資会社、合同会社になること、または合名会社、合資会社、合同会社が株式会社になることをいいます。

組織変更をする場合も債権者保護手続きが必要になりますのでご注意ください。

債権者保護手続きの流れ

債権者保護手続きは主に3つの流れで行われます。

官報公告への掲載

まずは官報に公告の掲載手続きを行います。

官報に債権者保護手続きが生じた事由などを記載し、債権者に対して公告を行います。

債権者への個別催告

官報で公告を行うだけでなく、「知れたる債権者」への個別催告も必要となります。

催告する内容や催告方法について定めはありません。

郵送やメールでも問題ありません。

なお、公告方法を日刊新聞紙や電子公告で行うように定款で定めている場合は、知れたる債権者への個別催告を省略し、日刊新聞紙や電子公告で行うことが認められています。

日刊新聞紙や電子公告ではそれなりの金銭的コストがかかりますので、費用を抑えたい場合は個別催告をしたほうがよいというケースが多いと思います。

異議を申し立てた債権者への弁済

官報での公告や個別催告に対し、債権者が異議を申し立てた場合、以下のいずれかの方法で弁済を行わなければなりません。

  • 会社が債務を弁済する
  • 債務に相当する担保を提供する
  • 債務の弁済を行うために信託会社に債務に相当する額の財産を信託する

債権者保護手続きの注意点

債権者保護手続きを行う場合の注意点は以下の3つです。

官報公告への掲載後、1ヶ月以上の異議申出期間を設ける

官報に公告を掲載してから1ヶ月以上の異議申立期間を設ける必要があります。

書類の作成、司法書士への依頼など、官報公告前にも一定の準備期間が必要になります。

目的とする行為の期日から逆算すると、2か月程度前から動き出した方がいいでしょう。

登記時に、手続き完了を証明する書類を提出する

目的とする行為には登記を伴いますが、登記を行う際には、債権者保護手続きが全て完了していることを証明する書類を提出しなければなりません。

万が一債権者保護手続きが完了していない時点で書類を作成してしまうと、日程などがずれてしまい、目的とする行為そのものがやり直しになってしまうかもしれません。

債権者保護手続きが適正に完了したことを確認したうえで、その旨を証明する書類を作成し、それから登記などを行うようにしましょう。

債権者への個別催告漏れがないようにする

知れたる債権者への個別催告に漏れがあると、債権者保護手続きが適正に行われたとはみなされない場合があります。

そのようなケースで債権者からの異議申し立てがされると目的とする行為が無効となってしまうことも考えられます。

個別催告を行う場合は、債権額の大小に関わらず漏れがないように十分にチェックしておくことが重要です。

税制対応と債権者保護手続きの関係

より有利な税制を適用するために会社法上の手続きを取る必要があり、その過程で債権者保護手続きが必要になるケースを具体的に見ていきましょう。

減資により中小企業になる

上場企業でも実施されるケースが多くなっていますが、減資により税制上の中小企業になり、有利な税制を適用するケースがあります。

期末の資本金や期首の資本金で判定することになるため、目的の事業年度に間に合うように債権者保護手続きを念頭に入れたスケジューリングが必要です。

合併による欠損金の引継ぎ

特定の事業年度に合併により欠損金を引継ぎしたいと考えた場合、目的の事業年度に欠損金の引継ぎが間に合うように債権者保護手続きを念頭に入れたスケジューリングが必要です。

なお、今回は省略しますが合併による欠損金の引継ぎには細かい税務上の要件がありますのでそちらも慎重に検討が必要になります。

分割による法人税のメリット

分割によって1社が2社になることで、法人税等の低い税率が適用できる枠を2社で適用、交際費の800万円枠を2社で適用、などの対策をとることができます。

特定の事業年度にこれらを実施したいと考えた場合、目的の事業年度に間に合うように債権者保護手続きを念頭に入れたスケジューリングが必要です。

株式交換、株式移転で持株会社を作る

株式交換、株式移転で持株会社を作ることにより相続税が軽減されるケースがあります。

どのようなケースで相続税が軽減されるかの解説は省略しますが、特定の事業年度までにこれらを実施したいと考えた場合、目的の事業年度に間に合うように債権者保護手続きを念頭に入れたスケジューリングが必要です。

組織変更の税制メリットは無い?

株式会社から合同会社へ、合同会社から株式会社へなど、組織変更による税制メリットについては今のところ見当たりません。

いずれの形式でも同じように課税されるためです。

今後、何かしらの税制メリットが現れましたら本ブログでお知らせしますね!

まとめ

より有利な税制を適用しようと検討するとき、どうしても税制にばかり目が行って会社法の手続きが疎かになってしまいがちです。

税法と会社法、常に両方に目を配っていきましょう!

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