社長が自宅の賃貸借契約名義を法人契約にして社宅扱いにすることがよくありますよね。
その際には社宅の家賃をいくらに設定するかが重要になりますが会社が不動産オーナーに支払う家賃の半額に設定しているケースが多いと思います。
こちらについては通常は半額に設定すれば税務上問題になる可能性は低いということですがより正確に確認していきましょう。
税務上問題とならない家賃の設定
税務上問題とならない=給与課税されない家賃の設定のためにはまずは役員の社宅を3つに区分する必要があります。
そしてそれぞれの区分で家賃の計算方法が異なります。
いわゆる豪華社宅である場合
いわゆる豪華社宅であるかどうかは、床面積が240㎡を超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して判定します。
なお、床面積が240㎡以下のものであっても、プール等の設備や役員個人のし好を著しく反映した設備等を有するものについては、いわゆる豪華社宅に該当することとなります。
いわゆる豪華社宅に該当することになった場合は、
通常支払うべき使用料に相当する額
が賃貸料相当額になります。
他から借り受けた住宅等を貸与する場合は会社が不動産オーナーに支払う家賃と同額になりますね。
半額設定では問題ありということです。
小規模な住宅でない場合(通達36-40)
まず小規模な住宅を確認しましょう。
小規模な住宅とは、
- 法定耐用年数が30年以下の建物の場合には床面積が132㎡以下
- 法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99㎡以下
- (区分所有の建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)
である住宅をいいます。
小規模な住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃貸料相当額の算出方法が異なります。
自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額(月額)になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が不動産オーナーに支払う家賃の50%の金額と、自社所有の社宅の場合で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額
が賃貸料相当額になります。
通常、自社所有の社宅の場合の金額が会社が不動産オーナーに支払う家賃の50%の金額を下回りますので、会社が不動産オーナーに支払う家賃の50%の金額で設定しておけば問題になる可能性は低いことになります。
小規模な住宅である場合(通達36-41)
小規模な住宅である場合の家賃(月額)の計算は以下の通りです。
次の(1)から(3)までの合計額
(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2)12円×(その建物の総床面積(㎡)/(3.3㎡))
(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
こちらは自社所有か他から借りているかの区分がありませんが、通常上記の金額が会社が不動産オーナーに支払う家賃の50%の金額を下回りますので、会社が不動産オーナーに支払う家賃の50%の金額で設定しておけば問題になる可能性は低いことになります。
給与課税される金額
上記の区分に応じて計算した金額より低い金額の家賃設定をした場合に、上記の区分に応じて計算した金額と家賃設定額との差額が給与課税されることになります。
家賃設定せず、タダで貸している(家賃無料の)場合は全額が給与課税になりますね。
固定資産税の課税標準額の確認が必要になる
上記の計算式で頻繁に登場するのが固定資産税の課税標準額です。
適正な家賃を設定するためには固定資産税の課税標準額の確認が必要になるということです。
固定資産税の課税標準額は自社所有物件であれば毎年6月ごろに固定資産税の納付書ともに送られてくる固定資産税課税明細書で確認することができます。
他から借りている物件の場合はどうすればよいでしょうか?
「不動産オーナーに聞くのはなんだか気が引けるなあ」と諦めてしまう人が多いようですが諦めるのはまだ早いです。
借りている側が確認する方法があります。
固定資産の閲覧
固定資産の閲覧という方法で固定資産評価証明書を取得すれば固定資産課税台帳に登録された事項(評価額、課税標準額等)を確認することができます。
この評価証明書は不動産オーナーはもちろんのこと、その不動産を借りている人も取得することができるのです。
取得の際に必要な書類は各自治体によって異なりますので対象の自治体に確認いただく必要がありますが一般的には不動産賃貸借契約書を持参することで取得が可能になります。
固定資産の縦覧
固定資産の閲覧と似たような制度で固定資産の縦覧というものがあります。
固定資産の縦覧とは自分の土地・家屋と他の方の土地・家屋の評価額を比較し、自分の土地・家屋の評価額が公平・適正であるかが確認できる制度です。
このため不動産オーナーであれば誰でも、その不動産が所在する自治体の全ての土地・家屋を記載した「縦覧台帳」を期間限定で見ることができます。
なお縦覧台帳には所有者の氏名や住所は記載されていません。
ちなみに縦覧期間は4月1日(今年、令和5年であれば明日(3日))から固定資産税の第1期の納期までの間となっています。
固定資産税の第1期の納期は自治体によって異なりますので注意しましょう。
横浜市の場合は4月末、東京都の場合は6月末となっており、自治体によって2か月も差がありますね。
そして重要なポイントは不動産を借りている人は縦覧を利用することができないので注意が必要です。
閲覧と縦覧の比較
閲覧と縦覧の比較を表にまとめると以下の通りです。
閲覧 | 縦覧 | |
所有者 | 〇 | 〇 |
賃借人 | 〇 | × |
自己物件以外の他の物件確認 | × | 〇(当該自治体の物件) |
手数料 | 必要(自治体によって異なるが概ね数百円) | 無料 |
期間 | いつでも可 | 4月1日から固定資産税の第1期の納期まで |
仕事で使う部分がある社宅
社宅の中に仕事で使う部分がある場合は以下の所得税法基本通達が適用できます。
(通常の賃貸料の額の計算の特例)
36-43 36-40又は36-41により通常の賃貸料の額を計算する場合において、その住宅等が次に掲げるものに該当するときは、その使用の状況を考慮して通常の賃貸料の額を定めるものとする。この場合において、使用者が当該住宅等につきそれぞれ次に掲げる金額をその賃貸料の額として徴収しているときは、その徴収している金額を当該住宅等に係る通常の賃貸料の額として差し支えない。(1) 公的使用に充てられる部分がある住宅等 36-40又は36-41により計算した通常の賃貸料の額の70%以上に相当する金額
公的使用に充てられる部分の定義については明確にされていませんが「仕事で使う部分」と解釈して差し支えないでしょう。
仕事部屋、応接室、会議室など仕事専用スペースと認識しておいた方が無難です。
リビングや寝室で仕事をすることがあるという程度だと、それを公的使用に充てられる部分とすることは難しい可能性があります。
通達36-40・通達36-41の算式に当てはめて計算された賃料×70%とできるとかなり社宅家賃の負担は小さくなりますよね。
仮に仕事で使うスペースが社宅全体の30%以上あるようなケースでは具体的な取り扱いは通達等では示されていませんが仕事で使う部分は全額経費にして残りの床面積について合理的に案分して社宅家賃を計算するなどの方法を取ることも考えられます。
注意点
固定資産税の課税標準額とは
固定資産税の課税標準額は、地方税法の規定により、賦課期日(1月1日)における固定資産の価格として固定資産課税台帳に登録されているものをいいます。
なお、固定資産税の課税標準額には住宅用地の特例や税負担の調整措置などがありますが社宅の家賃を計算する際の固定資産税の課税標準額とは特例措置や調整措置の適用前の金額(固定資産の価格・評価額)であることに注意しましょう。
固定資産税の課税標準額が改訂された場合
固定資産税の課税標準額を基に社宅の家賃を設定する場合、その住宅等の固定資産税の課税標準額が改訂された場合は、社宅家賃を計算し直すこととなります。
固定資産税については、原則として3年ごとにその評価の見直しを行って価格を決めることとされています。
使用人に貸与された社宅については、その課税標準額の改訂幅が20%以内であれば再計算をする必要はないこととされています(所得税法基本通達36-46)。
役員については使用人のような通達がありませんので3年ごとの見直しをすることに注意しましょう。
なお、見直しのタイミングは、固定資産税の課税標準額の改訂後、その改訂後の課税標準額に係る固定資産税の第1期の納期限の属する月の翌月分からになります。
月の途中で役員に貸し始めた場合
月の途中で役員に貸し始めた場合は、貸した日の翌月分から、役員に対して貸した社宅としての賃貸料の額を計算することになります。
まとめ
社宅の家賃の設定をする際は少しでも低く設定した方が税務上は有利になります。
少し手間はかかりますが今後数年、場合によっては数十年同じ家賃を支払い続けることになると思いますので固定資産の閲覧制度の活用をご検討ください。