令和6年度税制改正にて賃上げ促進税制が強化されることになりましたね。
大企業・中堅企業については給与等支給額の増加額(前期比)の最大35%が税額控除可能に、中小企業については給与等支給額の増加額(前期比)の最大45%が税額控除可能になります。
適用期間は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度ということで3月決算法人は既に対象期間に入っています。
この改正後の賃上げ促進税制を適用することになる決算・申告は来年の今頃ということになりますが、最大控除率を適用するためには「くるみん」「えるぼし」の認定を取得する必要があり、その準備は今からしておいた方がいいですね。
来年の今頃に「くるみん」「えるぼし」の認定を取得しても来年の申告(2025年3月期)には間に合いません(最大控除率が適用できない)のでご注意ください!
くるみんについて
控除率の上乗せ
くるみん認定を取得することによる控除率の上乗せは以下の通りです。
- 大企業:プラチナくるみん取得で5%上乗せ
- 中堅企業:プラチナくるみん取得で5%上乗せ
- 中小企業:くるみん取得で5%上乗せ
もちろん中小企業がプラチナくるみんを取得しても5%上乗せが適用できますね。
くるみんとは
次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。
そして平成27年4月1日より、くるみん認定を既に受けていて両立支援の制度の導入や利用が進み、高い水準の取組を行っている企業を評価しつつ、継続的な取組を促進するため、新たにプラチナくるみん認定がはじまりました。
くるみん認定・プラチナくるみん認定を受けた企業は、「くるみんマーク」「プラチナくるみんマーク」を広告等に表示し、子育てサポート企業であることを外部にアピールできます。
その他、現在は「トライくるみん」「くるみんプラス」の認定制度もありますが賃上げ促進税制の適用要件となっているのは「くるみん」と「プラチナくるみん」のみです。
くるみん認定の流れ
くるみん認定の流れは概ね以下のようになります。
- 一般事業主行動計画を策定
- 一般事業主行動計画を自社HP等で公表し、かつメール等で労働者に通知
- 一般事業主行動計画を策定したことを都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ届出
- 計画期間終了後、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ認定申請
一般事業主行動計画
一般事業主行動計画とは企業が次世代法に基づき、労働者の仕事と子育ての両立を図るために策定する計画のことです。
行動計画に書くべきことは①計画期間②目標③目標を達成するための対策の内容と実施時期です。
作成例は以下の通りです。
(厚生労働省パンフレットより引用)
くるみん認定基準
くるみん認定を受けるには以下の10項目の認定基準をすべて満たしている必要があります。
- 雇用環境の整備について、行動計画策定指針に照らし適切な行動計画を策定したこと。
- 行動計画の計画期間が、2年以上5年以下であること。
- 策定した行動計画を実施し、計画に定めた目標を達成したこと。
- 策定・変更した行動計画について、公表および労働者への周知を適切に行っていること。
- 「計画期間における、男性労働者の育児休業等取得率が10%以上であり、当該割合を厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」で公表していること。」または「計画期間における、男性労働者の育児休業等取得率および企業独自の育児を目的とした休暇制度利用率が、合わせて20%以上であり、当該割合を厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」で公表していること、かつ、育児休業等を取得した者が1人以上いること。」
- 計画期間における、女性労働者の育児休業等取得率が、75%以上であり、当該割合を厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」で公表していること。
- 3歳から小学校就学前の子どもを育てる労働者について、「育児休業に関する制度、所定外労働の制限に関する制度、所定労働時間の短縮措置または始業時刻変更等の措置に準ずる制度」を講じていること。
- 計画期間の終了日の属する事業年度において「フルタイムの労働者等の法定時間外・法定休日労働時間の平均が各月45時間未満であること。」と「月平均の法定時間外労働60時間以上の労働者がいないこと。」のいずれも満たしていること。
- 「所定外労働の削減のための措置」「年次有給休暇の取得の促進のための措置」「短時間正社員制度、在宅勤務、テレワークその他働き方の見直しに資する多様な労働条件の整備のための措置」のいずれかの措置について、成果に関する具体的な目標を定めて実施していること。
- 法および法に基づく命令その他関係法令に違反する重大な事実がないこと。
プラチナくるみん認定とは
くるみん認定企業のうち、より高い水準の取組を行った企業が、一定の要件を満たした場合、必要書類を添えて申請を行うことにより、優良な「子育てサポート」企業としてプラチナくるみん認定を受けることができます。
詳細な要件等は省略しますがくるみん認定より厳しい12項目の特例認定基準を全て満たす必要があります。
えるぼしについて
控除率の上乗せ
えるぼし認定を取得することによる控除率の上乗せは以下の通りです。
- 大企業:プラチナえるぼし取得で5%上乗せ
- 中堅企業:えるぼし三段階目以上取得で5%上乗せ
- 中小企業:えるぼし二段階目以上取得で5%上乗せ
もちろん中小企業がえるぼし三段階目以上を取得しても5%上乗せが適用できますね。
えるぼしとは
女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした場合に、厚生労働大臣の認定(えるぼし認定)を受けることができます。
そして令和2年6月より、えるぼし認定企業のうち、 一般事業主行動計画の目標達成や女性の活躍推進に関する取組の実施状況が特に優良である等の一定の要件を満たした場合にプラチナえるぼしとして認定される制度がはじまりました。
えるぼし認定・プラチナえるぼし認定を受けた企業は、「えるぼしマーク」「プラチナえるぼしマーク」を商品等に表示し、子育てサポート企業であることを外部にアピールできます。
えるぼし認定の流れ
えるぼし認定の流れは概ね以下のようになります。
- 一般事業主行動計画を策定
- 一般事業主行動計画を自社HP等で公表、かつメール等で労働者に通知
- 一般事業主行動計画を策定したことを都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ届出
- 自社の女性の活躍に関する状況について公表
- 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ認定申請
一般事業主行動計画
一般事業主行動計画とは女性活躍推進法に基づき、自社の女性の活躍に関する状況の把握・課題分析をもとに目標を設定し、達成するための具体的な取り組み内容をまとめたものをいいます。
行動計画に書くべきことは①計画期間②数値目標③取組内容④取組の実施時期です。
作成例は以下の通りです。
(女性の活躍・両立支援総合サイトより引用)
えるぼし認定基準
えるぼしの二段階目の認定を受けるには以下の5項目の「女性の職業生活における活躍の状況に関する実績に係る基準」のうち3つ又は4つの項目を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していることが必要になります。
また、満たさない項目については、事業主行動計画策定指針に定められた取組の中から当該項目に関連するものを実施し、その取組の実施状況について「女性の活躍推進企業データベース」に公表するとともに、2年以上連続してその実績が改善していることが必要になります。
採用
次の1と2のいずれかに該当すること。
- 男女別の採用における競争倍率(応募者数/採用者数)が同程度であること。
(直近3事業年度の平均した「採用における女性の競争倍率×0.8」が、直近3事業年度の平
均した「採用における男性の競争倍率」よりも雇用管理区分ごとにそれぞれ低いこと(期間
の定めのない労働契約を締結する労働者として雇い入れることを目的とするものに限る)。) - 直近の事業年度において、次の①と②の両方に該当すること。
①正社員に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値(平均値が4割を超える場合は4割)以上であること。
②正社員の基幹的な雇用管理区分における女性労働者の割合が産業ごとの平均値(平均値が4割を超える場合は4割)以上であること。
(※)正社員に雇用管理区分を設定していない場合は、①のみに該当すればOKです。
継続就業
直近の事業年度において、次の1と2のいずれかに該当すること。
- 「女性労働者の平均継続勤務年数」÷「男性労働者の平均継続勤務年数」が雇用管理区分ごとにそれぞれ7割以上であること。
(※)期間の定めのない労働契約を締結している労働者に限る。 - 「女性労働者の継続雇用割合」÷「男性労働者の継続雇用割合」が雇用管理区分ごとにそれぞれ8割以上であること。
(※)新規学卒採用者等として雇い入れた労働者であって、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に限る。
上記を算出することができない場合は、「直近の事業年度において、正社員の女性労働者の平均継続勤務年数が産業ごとの平均値以上であること」でも要件を満たすことになります。
労働時間等の働き方
直近の事業年度の各月ごとに全て45時間未満であること。
「各月の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷「対象労働
者数」< 45 時間
これが難しい場合は、
[「各月の対象労働者の総労働時間数の合計」-「各月の法定労働時間の合計=
(40×各月の日数÷7)×対象労働者数」] ÷「対象労働者数」< 45 時間
でも要件を満たすことになります。
管理職比率
次の1と2のいずれかに該当すること。
- 直近の事業年度において、管理職に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値以上であること。
- 「直近3事業年度の平均した1つ下位の職階から課⾧級に昇進した女性労働者の割合」÷「直近3事業年度の平均した1つ下位の職階から課⾧級に昇進した男性労働者の割合」が8割以上であること。
多様なキャリアコース
直近の3事業年度のうち、以下1~4について、
・常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は2項目以上(非正社員がいる場合は必ずアを含むこと)
・常時雇用する労働者数が300人以下の事業主は1項目以上の実績を有すること
- 女性の非正社員から正社員への転換(派:雇入れ)
- 女性労働者のキャリアアップに資する雇用管理区分間の転換
- 過去に在籍した女性の正社員としての再雇用
- おおむね30歳以上の女性の正社員としての採用
えるぼし三段階目以上とは
上記の5つの項目全てを満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していることでえるぼし三段階目以上の認定を受けることができます。
プラチナえるぼし認定とは
えるぼし認定企業のうち、一般事業主行動計画の目標達成や女性の活躍推進に関する取組の実施状況が特に優良である等の一定の要件を満たした場合にプラチナえるぼし認定を受けることができます。
詳細な要件等は省略しますがえるぼし認定より厳しい項目の認定基準を全て満たす必要があります。
まとめ
くるみん認定もえるぼし認定もハードルが高いですよね。
既に要件を満たしている場合は認定取得に向けて動き出しましょう。
ただ、賃上げ促進税制の最大控除率を狙うために認定取得に向けて動くというのは少し考えた方がいいかもしれません。
賃上げ促進税制には法人税額の20%という控除上限があり、多くの法人がこの上限に達してしまっています。
最大の控除率(45%)が適用されるケースは相当なレアケースということです。
さらに上記の要件にもある通り認定取得に向けて動き出してからくるみんでは確実に2年以上、えるぼしでも2年以上の期間を要する可能性があります。
2年後に利益がどうなっているか、法人税をどの程度支払うことになるか、賃上げを継続できるか、いずれも不透明ですよね。
なので個人的には毎期確実に最大の控除率(45%)が適用できる見込みである場合以外は賃上げ促進税制のためにくるみん・えるぼしの認定を取得する必要はないかと思います。
認定の取得を迷われている場合は判断基準の一つにしていただくとよいのではないでしょうか。