自宅兼事務所について経費計上する場合、何がどこまで経費計上できるのかなど分からないことが多いと思います。
自宅兼事務所が夫婦共有であったりするとさらに考え方が複雑化してしまいます。
今回は夫婦共有の自宅兼事務所について経費計上(節税)する場合のお話です。
個人事業者(フリーランス)の場合
個人事業者の場合は自宅兼事務所の減価償却費を経費計上することが出来ます。
また、付随する水道光熱費なども経費計上することができます。
法人の社長の場合
法人の社長が所有している自宅について一部を法人の業務で使用する場合は、その使用している部分について法人から社長に家賃を支払い、経費として計上することができます。
家賃の金額は周辺の家賃相場を基に決定することになりますが受け取った社長は不動産所得として所得税がかかります。
社長としては受け取る家賃に対してどの程度の経費(減価償却費など)が計上できるかが法人・個人を合わせたタックスプランニング上、重要になります。
仕事で使っている割合を計算する
さて、具体的な経費計上の手順としては、まずは仕事で使っている割合を計算します。
お手元の売買契約書や不動産登記事項証明書(登記簿謄本)から建物の全体の床面積を確認しましょう。
そしてその中からお仕事で使っている部分の面積を確認します。
こちらは建物の図面などで具体的な㎡数が分かればよいですが、建物の図面が無く確認が難しい場合は物件購入時の間取り図を確認しましょう。
お仕事で使っている部屋などを見てみると何畳か記載されていることが多いと思います。
1畳の面積については定まったものはありませんが、「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」の基準にならい「1帖(1畳)」=「1.62m²」で計算すれば問題になることはないでしょう。
仕事で使っている割合(事業供用割合)を計算式で表すと以下の通りになります。
「仕事で使っている部屋の畳数×1.62÷全体床面積」
購入金額を集計する
次に建物の購入金額を集計しましょう。
土地の金額は集計しないように注意しましょうね。
土地は時間の経過に伴って価値が減るとは限らないため減価償却費が計上できないのです。
建物の金額と土地の金額の区分は売買契約書上で分かれていればその金額を使います。
分かれていない場合も消費税の金額の記載があれば「消費税の金額÷消費税率」で割り戻して建物の金額を逆算することができます。(土地は消費税非課税、建物は消費税課税のため)
消費税の金額の記載もない場合は全体の金額を土地と建物の固定資産税評価額の割合で案分する計算になりますがここまでくると難易度が上がりますので税理士などの専門家に相談した方がよいですね。
計算例としては「全体の売買価格×(建物の固定資産税評価額÷(建物の固定資産税評価額+土地の固定資産税評価額))」ということになります。
また、建物の購入金額の集計の際は売買契約書で確認した購入金額とは別に支払っている以下のものも合計して集計しましょう。
- 仲介手数料
- 固定資産税の清算金
注意点としてはいずれも建物部分のみを集計する必要がありますので建物部分を個別に確認することができない場合は購入金額の比率などで案分する必要があります。
以下のものは建物に集計せずにそのまま費用になります。
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 司法書士に支払う登記費用
- 売買契約書に貼った印紙代
購入金額等に仕事で使っている割合を乗じて仕事で使っている部分を計算する
次のステップは上記で集計した建物の購入金額に仕事で使っている割合を乗じて仕事で使っている部分を計算することです。
そして、仕事で使っている部分の金額は建物として減価償却費を計算し事業所得に対する経費として計上しましょう。
固定資産税や水道光熱費など自宅兼事務所にかかる費用も同様の割合を乗じて計算した金額を経費として計上できます。
一方、仕事で使ってない部分の金額は経費にはなりませんが、その不動産について住宅ローンを組んでいる場合は住宅ローン控除が適用できる可能性があります。
ここで重要になるのが「仕事で使っている割合」です。
仕事で使っている割合が50%超の場合
この場合、住宅ローン控除は適用できないことになってしまいます。
経費計上できる金額も仕事で使っている割合に限られますので注意です。
仕事で使っている割合が10%超50%以下の場合
この場合は仕事で使っていない部分の割合=居住用割合についてのみ住宅ローン控除の適用を受けることが出来ます。
仕事で使っている割合は経費計上できます。
仕事で使っている割合が10%以下の場合
この場合、住宅ローン控除を満額で適用することが出来ます。
その一方で仕事で使っている割合も経費計上できますのでお得感がありますね。
仕事で使う部分を多くした方が得になるということではない
感覚として仕事で使う部分を多くした方が経費が多く計上できるので特になると思われるかもしれません。
住宅ローンが無い場合はその通りの感覚で問題ありません。
しかし住宅ローンがある場合はその通りにならないこともあります。
難しいですね。
住宅ローン残高と経費に計上できる減価償却費の金額の大きさと所得の大きさのバランスで決まりますね。
住宅ローン控除は組んだ年によって上限が異なりますがここ数年は最大で年間40万円が限度です。
所得税・住民税・事業税まで含めた最高税率は令和元年時点で60%になりますので最高税率に入っている方が67万円の減価償却費を計上出来れば40万円超の節税効果がありますので住宅ローン控除を取るよりも得になりますね。
逆に所得税・住民税・事業税含めた最低税率は20%なのでそのような方が40万円超の節税効果を上げるためには200万円の減価償却費を計上する必要があります。
所得が高い人は減価償却費として計上した方が有利になる可能性が高く、所得が低い人は住宅ローン控除として計上した方が有利になる可能性が高いですね。
しかし、さらに注意しないといけないのは所得が低い人は所得税も少ないため住宅ローン控除額が所得税から引ききれない可能性がある点です。
控除しきれなくなるぐらいであれば減価償却費として経費計上した方が有利になる可能性があります。
このあたりを注意して自宅をどの程度お仕事で使うかを決定したいところです。
配偶者の共有持ち分はどのように考えるか
次に配偶者が持分を持っている部分はどのように考えればよいでしょうか。
経費計上金額について
素直に考えると配偶者が持分を持っている部分は事業を行っているご自身の持ち物ではないため経費に計上できないと思われるかもしれません。
しかし配偶者の持分に対応する部分も経費に計上することができます。
これは所得税法に規定されているのですが、所得税法上、配偶者(生計を一にする親族)に配偶者の持分に対応する部分の家賃を支払っても経費にできないとされている一方で配偶者の持分に対応する部分の経費は計上出来ることとされています。(所得税法56条)
なんだかややこしいですね。
まあ、結果として配偶者の持分の減価償却費や固定資産税、水道光熱費も経費計上できますので忘れないように計上しましょう。
住宅ローン控除について
住宅ローン控除については夫婦で連帯債務であるか、夫婦どちらかの単独債務であるかで計算が異なります。
債務の名義が連帯債務である場合は、まず住宅の持分の割合に応じて自分が取得した部分の金額を計算します。
①合計取得金額×持分割合
次に連帯債務の金額に自分の連帯債務の負担割合(所得金額等に応じて合理的に定める必要があります)を乗じて自分の負担する債務の金額を計算します。
②連帯債務金額×負担割合
①と②のいずれか少ない金額に居住用割合を乗じた金額が住宅ローンの適用対象金額になります。
債務の名義が夫婦どちらか単独名義の場合は、②がありませんので結果として①合計取得金額×持分割合に居住用割合を乗じた金額に対して住宅ローン控除を適用することになります。
債務の名義が単独であっても持分が夫婦半々、居住用割合が50%ととすると借入金額の25%しか住宅ローン控除を受けられないことになります。
まとめ
夫婦共有の自宅兼事務所について、どの程度の割合を仕事で使えば税金計算上最も有利になるかは非常に判断が難しいです。
万人に当てはまる正解の割合はないのです。
それぞれのケースに合わせてシミュレーションすることが必要になります。
また、購入時に最適と思われていた割合もその後の状況の変化によって最適でなくなる可能性も高いです。
所得は毎年変動しますし住宅ローン残高も毎年減少しますし住宅ローン控除の適用年数にも限りがあります。
その年に最適と思われる割合に毎年変更することは当然のことながら認められません。
仕事で使っている割合を変える場合はそれなりの理由が必要になりますので注意が必要です。
自宅兼事務所の建設・購入時にはその後の状況の変化も考慮して夫婦の共有割合・仕事で使う割合を慎重に検討しましょう!