法人として順調に事業を続けてきたものの、「最近、利益が落ち着いてきた」「事務手続きが負担になっている」といった理由から、事業形態の見直しを検討する経営者の方が増えています。
その選択肢の一つが、個人成り(法人から個人事業主への切り替え)です。
本記事では、個人成りとは何か、具体的なメリット・デメリットを詳細に比較し、税務上の注意点について解説します。
💡個人成りとは?その目的と法人化との違い
1. 個人成りの定義と背景
「個人成り」とは、株式会社や合同会社といった法人組織を解散・清算し、その事業を個人事業主として引き継いで運営することを指します。
法人化(個人事業主から法人になること)は、主に事業規模の拡大、節税、社会的信用の向上を目的に行われますが、個人成りはその逆の意思決定です。主な目的は、経営の効率化、税負担の軽減(特に低所得時)、そして事務手続きの簡素化です。
2. 事業形態の選択は「最適化」が重要
法人と個人事業主は、どちらが優れているというものではなく、事業のステージや収益状況に応じて最適な形を選ぶことが重要です。
- 法人化が有利なケース: 所得が高額(一般的に所得800万円~900万円超)で、社会的な信用力や経費計上の幅の広さを重視する場合。
- 個人成りが有利なケース: 所得が安定して低い水準にあり、法人特有の維持費(均等割など)や煩雑な事務手続きを避けたい場合。
✅個人成りの主なメリットを深掘り
個人成りを選択することで得られるメリットは、特にコスト削減と業務効率化の面で顕著です。
1. 税負担の最適化:所得税と法人税の逆転現象
個人事業主の所得税は超過累進課税(所得が増えるほど税率が上がる)ですが、法人税は比較的税率が安定しています。
| 所得税の税率(個人事業主) | 法人税の税率(中小法人) |
|---|---|
| 5%~45%(所得金額に応じて変動) | 15%(所得800万円以下の部分) |
| 23.2%(所得800万円超の部分) |
所得が非常に高くなると所得税の最高税率(45%)が適用されるため、法人税率(最大23.2%)の方が有利でした。しかし、所得が比較的低く安定している場合は、所得税の低い税率帯が適用されることで、**法人税や事業税、法人住民税を合計した法人側の税負担よりも、個人事業主側の税負担の方が小さくなる**可能性があります。
2. 運営コストと事務手続きの劇的な軽減
法人の運営には、事業活動とは別に避けられないコストと事務作業が発生します。
- 法人住民税の均等割の解消:法人は赤字であっても、最低年間約7万円(地域により異なる)の法人住民税の均等割を支払う義務があります。個人事業主にはこの均等割の負担がありません。
- 複雑な法人手続きの解消:株式会社の場合、決算公告や役員の任期が来た際の**役員変更登記**(登録免許税が必要)、**株主総会の開催・議事録作成**などが義務付けられています。個人事業主になれば、これらの手続きは一切不要となり、事務の負担が大幅に軽減されます。
3. 消費税の免税期間の発生
消費税の納税義務は、基準期間(原則として2年前)の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定されます。
個人から法人への切り替え(法人成り)と同様に、法人から個人への切り替え(個人成り)によって、新しくスタートした個人事業主は、開業から最大2年間は消費税の納税義務が免除される可能性があります。
ただし、以下の点には注意が必要です。
- 個人事業主としてスタートする際にインボイス制度の登録事業者となる場合、売上に関わらず当初から納税義務が発生します。
- 免税目的で法人化と個人成りを繰り返す行為は、税務当局から**脱税行為**と見なされるリスクがあります。
⚠️個人成りの主なデメリットと注意点
1. 社会的信用と資金調達力の低下
法人は個人とは別人格の組織として見なされるため、社会的な信用力が高く、特に大手企業との取引や金融機関からの融資において有利です。
個人成りによって法人格を失うと、取引先から取引条件の見直しを求められたり、金融機関からの融資審査が厳しくなる可能性があります。事業拡大を目指す段階にある場合は、個人成りは慎重に判断すべきです。
2. 経費計上できる範囲の縮小
法人では、経営者(役員)に支払う**役員報酬**や**退職金**を法人側の経費として計上し、計画的な節税が可能でした。また、出張手当など、個人事業主よりも経費として認められる範囲が広いのが特徴です。
個人事業主になると、**事業主自身への給与は経費と認められません**。これにより、所得全体に対する税負担が増加する場合があります。
3. 無限責任への移行
法人は、出資した金額の範囲で責任を負う**有限責任**が原則です。万が一事業が破綻しても、経営者の個人資産が事業の負債に充てられることはありません(ただし、経営者が連帯保証をしている場合は例外)。
一方、個人事業主は**無限責任**を負います。事業上の負債は、事業主個人の負債と区別されないため、**負債の全額を個人資産で弁済する義務**が生じます。
4. 社会保険・労働保険の取り扱い
法人は、原則として**社会保険(健康保険・厚生年金)**への加入が義務付けられています。個人成りすると、経営者自身は**国民健康保険・国民年金**に切り替わります。
- 国民健康保険・国民年金は、社会保険に比べて将来受給できる年金額が少なくなる可能性や、保険料の算定方法が異なる点に注意が必要です。
- 従業員を雇用している場合、個人事業主となっても、業種や人数によっては労働保険(労災保険・雇用保険)への加入義務が継続することがあります。
📋【最重要】個人成りに伴う解散・清算手続きと税務処理の深掘り
個人成りのプロセスは、「法人の解散・清算」と「個人事業の開始」の2つのステップに分かれます。特に、法人の清算時には、**資産の個人への移転に伴う複雑な税務処理**が発生します。
Step 1:法人の解散・清算手続き
法人が事業を停止する手続きは、以下の流れで進みます。
- 解散の決定と登記:株主総会で**解散の決議**を行い、**清算人を選任**します。法務局で解散と清算人選任の**登記**を行います。
- 解散の届出:税務署、都道府県税事務所、市町村役場に**解散届**を提出します。社会保険や労働保険の資格喪失手続きを行います。
- 清算手続き:法人の債権・債務を整理し、**残余財産を確定**します。この際、官報に解散公告を掲載し、債権者に対して2ヶ月以上の申出期間を設ける必要があります。
- 清算結了の登記:残余財産が株主へ分配された後、法務局で**清算結了の登記**を行い、法人格が消滅します。
- 税務申告:解散事業年度の確定申告、清算事業年度の確定申告(必要に応じて中間申告)など、通常の確定申告とは異なる複数の税務申告が必要です。
Step 2:資産の個人への移転
個人成りで最も複雑な税務処理が、法人の資産を株主(多くの場合、経営者自身)が受け取る際の処理です。
法人が解散し、株主が残余財産の分配を受ける際、その金額が当初の出資額(資本金等の額)を上回る部分については、「みなし配当」(配当所得)として課税されます。
また、残余財産として分配する資産は金銭以外(不動産、車両、機械装置など)でも可能ですが、法人側では時価で譲渡したものとして譲渡損益を認識する必要があります。
個人成りを検討する段階にある場合、固定資産もほぼ無いことが予想されますので時価(=償却後簿価として)で個人に売却する方法が良いと思います。
特に注意! 不動産など評価が難しい資産の移転では、**適正な時価評価**が求められ、評価を誤ると想定外の税金が発生するリスクがあります。棚卸資産も時価で譲渡したものとして、法人側で売上計上、個人側で仕入れ計上するなどの処理が必要です。
Step 3:個人事業の開業手続き
法人の事業を引き継ぐ形で個人事業主として事業を開始します。
- 開業届の提出:税務署に「個人事業の開廃業等届出書」を提出します。
- 青色申告の申請:青色申告による税制優遇(最大65万円の控除など)を受ける場合は「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。
👨💻まとめ:個人成りは専門家とのシミュレーションが不可欠
個人成りは、単に「法人を閉めて、個人事業主の届出を出す」という単純な手続きではありません。
特に、事業の利益状況を正確に分析し、「法人税+法人住民税+法人事業税」と「所得税+個人住民税+個人事業税」の負担を比較した上で、どちらの形態が総合的な税負担を軽減できるかを判断する必要があります。また、資産の清算・移転には、みなし配当やみなし譲渡といった複雑な税務処理が伴い、予期せぬ多額の課税が発生するリスクもあります。
当事務所では、お客様の現状の財務状況や将来の事業計画を詳細にお伺いし、個人成りによるメリットとリスクを数値でシミュレーションした上で、最適な事業形態への移行をサポートいたします。
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