ここ数年自然災害が増加していますが、それら自然災害で被災した自治体へ寄附をされている方も多いと思います。
法人のお客様からも寄附に関する税制のご相談をいただくことが多くなっております。
そこで今回は企業版ふるさと納税について見ていきたいと思います。
制度のポイント
法人税等から最大で約9割を税額軽減
寄附を検討する際のポイントとして税額軽減は重要ですよね。
この点については後ほど詳しく解説いたします。
法人が寄附金を支出する場合、法人税計算上は原則として一定額を超える部分の金額は損金(経費)に算入されないこととなっています。
一定額の計算についてはやや複雑な計算があるのですが、国や地方自治体に寄附をした場合は原則として、支出した全額が損金(経費)に算入されることとなっています。
寄附企業への経済的な見返りは禁止
一部の自治体で寄附を受けた事業の委託先が寄附をした法人のグループ会社であり官製談合の可能性があると指摘される事態が発生しました。
このように寄附をした見返りに事業の委託を受けるようなことは禁止されています。
なお、禁止されている行為として示されているのは以下の内容です。
a.補助金を交付すること。
b.他の法人に対する金利よりも低い金利で貸付金を貸し付けること。
c.入札及び許認可において便宜の供与を行うこと。
d.合理的な理由なく市場価格よりも低い価格で財産を譲渡すること。
e.このほか、経済的な利益を供与すること。
もちろん個人版のふるさと納税のような返礼品もありません。
地方創生事業に対する寄附になる
具体的な地方創生事業に対する寄附になるため、個人版のように寄附の使い道を自治体に任せるようなことはありません。
寄附額は事業費の範囲内とすることが自治体に求められていますので寄附した金額は確実にその事業に使われることになります。
そして、直接的な経済的見返りは禁止されていますが、その事業に寄附をすることで自社事業とのシナジーが期待できるような事業を選定することは可能です。
なお、個人版と同様、企業の本店が所在する自治体には寄附をすることはできません。
その他のメリット
自社事業とのシナジーが期待できるような事業に寄附すること以外のメリットとしては以下のようなものがあげられます。
- 社会貢献になるため企業としてイメージアップにつながること
- 企業としてのPR効果(SDGsの達成など)があること
- 地方公共団体との新たなパートナーシップの構築ができること
寄附金額と税額軽減額、上記のメリットを総合的に勘案して寄附を検討してみてはいかがでしょうか。
控除額を計算してみよう
制度のポイントのうち、「法人税等から最大で約9割を税額軽減」という部分がいまいち分かりづらいと思いますので実際に計算してみましょう。
課税所得1億円の場合
課税所得1億円の場合、最大(約9割)の税額軽減が受けられる寄附の上限に達するのは寄附金額100万円ぐらいのところです。
寄附金の損金算入
地方公共団体に対する寄附金は原則として、支出した全額が損金の額に算入されます。
そのことによる税額軽減効果を確認しましょう。
法人税は所得金額が800万円超の場合、税率は23.2%になります。
寄附金額100万円×23.2%=232,000円
地方法人税の税率は10.3%で法人税額に対して課税されます。
寄附金額100万円×23.2%×10.3%=23,896円
法人住民税の税率は東京都で年間の法人税が1,000万円超の場合10.4%で法人税額に対して課税されます。
寄附金額100万円×23.2%×10.4%=24,128円
法人事業税は東京都で年間の所得金額が2,500万円超の場合は超過税率の適用になり、所得金額が800万円超の場合、税率は7.48%になります。
寄附金額100万円×7.48%=74,800円
特別法人事業税の税率は37%で標準税率(7%)で計算した法人事業税に対して課税されます。
寄附金額100万円×7%×37%=25,900円
法人事業税と特別法人事業税は翌期に支払った際に損金算入されますのでその分を考慮して考えると次の金額を税額軽減効果から差し引いて考える必要がありますね。
(74,800円+25,900円)×(23.2%+23.2%×10.3%+23.2%×10.4%+7.48%+7%×37%)=38,339円
以上の金額を合計すると、
342,385円
が寄附金が損金算入されたことによる税額軽減効果になります。
もちろん本社が所在する自治体の税率によって計算結果は変わりますし、翌期以降の課税所得の状況によっては法人事業税と特別法人事業税の損金算入による影響額が変わります。
なので「法人税等から最大で約9割を税額軽減」という曖昧な表現になっているんですね。
寄付金の税額控除
税額控除できる金額が税制改正で拡充されていった結果、現在(2024年6月時点)の税制では損金算入による税額軽減効果と合わせて「法人税等から最大で約9割を税額軽減」できることになっています。
まず法人住民税の税額控除が「寄附額の4割」と「法人住民税の20%」のいずれか小さいほうが控除額になります。
寄附金額100万円×4割=400,000円<課税所得1億円×23.2%×10.4%×20%=482,560円 ∴400,000円
(※寄附金支出による課税所得の減少や800万円以下の軽減税率は考慮していません、以下同じ)
そして法人事業税の税額控除が「寄附額の2割」と「法人事業税額の20%」のいずれか小さいほうが控除額になります。
寄附金額100万円×2割=200,000円<課税所得1億円×7.48%×20%=1,496,000円 ∴200,000円
最後に法人税が「法人住民税で4割に達しない場合のその残額」と「寄附額の1割」と「法人税額の5%」のいずれか小さい金額になります。
法人住民税の税額控除残額0円<寄附金額100万円×1割=100,000円<課税所得1億円×23.2%×5%=1,160,000円 ∴0円
(※法人住民税の控除残額の計算基礎になる法人住民税の税額控除は実額ではなく法人税の1.4%(標準税率7%×20%)で計算することになります。)
以上の金額を合計すると、
600,000円
が寄附金の税額控除額になります。
最大で約9割を税額軽減
寄附金が損金算入されたことによる税額軽減効果と寄附金の税額控除額の合計が942,385円になり、寄附金額100万円の約9割になることが確認できましたね。
期限について
企業版ふるさと納税は租税特別措置法による時限立法なので期限があります。
具体的には令和7年3月末までとなっております。
この期限までに寄附の支払が完了すればOKです。
期限の延長があるかどうかは年末に向けて税制改正の議論がなされ、延長が決まれば年末の税制改正大綱に盛り込まれることになります。
寄附先の探し方
寄附先は下記の企業版ふるさと納税ポータルサイトから探すことができます。
https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/kigyou_furusato.html
ふるコネのサイトを利用しても便利ですね。
冒頭にも記載しましたが自然災害で被災した自治体への寄附にも企業版ふるさと納税が活用できます。
ご検討の際は被災した自治体のホームページなどをご確認いただくとよいと思います。
税務申告を忘れずに
税額軽減の適用を受けるためには寄附をした自治体から受領証明書の交付を受けて、自社の管轄税務署・都道府県税事務所・市区町村に税務申告をする必要がありますのでお忘れなく。
決算申告時に企業版ふるさと納税の適用を受けるための申告書の記載が必要になります。
詳細は顧問税理士などにご相談ください!