中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者が連帯保証人になることが一般的でした。
しかしここ数年、日本政策金融公庫を中心に経営者保証を不要とする融資が広まってきています。
そして今年(2024年)3月から全国の信用保証協会にて保証料率の上乗せで経営者保証が不要になる信用保証制度が始まりました。
経営者保証とは
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となること(保証債務を負うこと)を経営者保証といいます。
会社が倒産して融資の返済ができなくなった場合は、経営者個人が企業に代わって返済することを求められることになります。
このため会社が破産すると経営者個人も自己破産せざるを得ないケースがあり、このリスクを懸念して創業・開業をためらわれる人がいるため、日本の開業率が低くなっていると言われています。
また、開業した後でも大きな金額の借入を行っての大胆な事業展開を妨げる要因となっていることや、事業承継の際に後継者が連帯保証人になることを金融機関から求められて事業承継をためらわれることもあります。
経営者保証に関する支援策
上記のような問題点を解決するためこれまでも様々な支援策が講じられてきました。
まず、2012年12月5日に全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を公表し、2013年2月1日から適用開始になりました。
そして、2022年12月23日に金融庁・財務省とも連携の下、①スタートアップ・創業、②民間金融機関による融資、③信用保証付融資、④中小企業のガバナンス、の4分野に重点的に取り組む「経営者保証改革プログラム」が公表されました。
ただ、「経営者保証に関するガイドライン」は法的な拘束力がなく、経営者保証を解除するかどうかの最終的な判断は、金融機関にゆだねられていたため実務上はほとんど実行されていませんでした。
「経営者保証改革プログラム」が公表される前後から、特に政府系金融機関では経営者保証を不要とする新規融資の割合は上昇していますが、信用保証協会では利用できる制度が限られていたり、要件が厳しかったこともあり、経営者保証を不要とする新規融資の割合はあまり変わりませんでした。
≪経営者保証を不要とする新規融資の割合≫
(中小企業庁HPより引用)
しかし、そんな状況を打破すべく今年(2024年)3月から全国の信用保証協会にて経営者保証を提供しないことを選択できる新たな信用保証制度等が開始されました。
事業者選択型経営者保証非提供制度(横断的制度)
信用保証付融資にて、一定の要件を備えた中小企業が保証料率の上乗せを条件として経営者保証を提供しないことを選択できる制度です。
要件
次の要件のいずれにも該当することが必要になります。
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過去2年間(法人の設立日から2年経過していない場合は、その期間)において決算書等を申込金融機関に提出していること。
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直近の決算において代表者への貸付金等がなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと。
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直近の決算において債務超過でない(純資産の額がゼロ以上である)こと又は直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと。
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上記1.及び2.については継続的に充足することを誓約する書面を提出していること。
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保証料率の上乗せにより保証人の保証を提供しないことを希望していること
保証料率の上乗せ
上乗せになる保証料率は以下の通りです。
≪上記の3.の要件の両方を満たす場合≫
信用保証協会所定の保証料率に0.25%上乗せ
≪上記の3.の要件のいずれか一方を満たす場合又は法人の設立後2事業年度の決算がない場合≫
信用保証協会所定の保証料率に0.45%上乗せ
その他
保証限度額、保証期間などは原則として、本制度を適用する個別の保証制度等の取扱いに準じます。
事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度(国補助制度)
前記の横断的制度の活用を一気に加速するため、当初3年間(2027年3月末まで)の時限措置として、上乗せされる保証料率の一部を国が補助する信用保証制度が創設されました。
要件と保証料率の上乗せ
要件と保証料率の上乗せは事業者選択型経営者保証非提供制度(横断的制度)と同じです。
保証限度額
8,000万円
セーフティネット保証(4号・5号)の場合は、別枠で8,000万円
保証期間
一括返済の場合:1年以内
分割返済の場合:10年以内(据置期間は1年以内)
保証料補助
保証申込日に応じて、次の補助率に相当する額を国が補助します。
2024年3月15日~2025年3月31日の保証申込分
補助率 0.15%
2025年4月1日~2026年3月31日の保証申込分
補助率 0.10%2026年4月1日~2027年3月31日保証申込分
補助率 0.05%
融資利率
金融機関所定の利率
対象資金
運転資金、設備資金
申込方法
金融機関経由で申込
責任共有制度
責任共有対象
※セーフティネット保証4号の場合は責任共有対象外
まとめ
経営者保証を不要とする融資では日本政策金融公庫が先行していて使い勝手もよいのでまずは日本政策金融公庫の利用をお勧めしています。
日本政策金融公庫で経営者保証を不要とする融資を利用した後、さらに追加融資の検討をする際には上記の信用保証協会を利用した融資をご検討いただくのがよいかと思います。
経営者保証を不要とする融資を活用して大胆で積極的な事業展開にチャレンジしましょう!