税理士業務

錯誤・合意解除による契約取消と課税関係について

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契約を締結した後に当初の想定と異なる課税関係が生じることを知り、「そんなに課税されるなら契約を取消しにしたい」と思われたことはないでしょうか?

今回はそのようなケースで契約を取消した場合に、課税関係がどうなるのか、契約の取消を税務署は認めてくれるのか、について解説したいと思います。

判例等の確認

まずは私が収集した判例等の確認結果が以下の通りです。

判決等 税目 主張 契約取消 処分取消 申告期限 税務調査
S39.7.4通達の運用 贈与税 合意解除
H21.2.27東京地裁 相続税 課税錯誤
S60.10.23東京地裁 所得税 合意解除 ×
H1.9.14最高裁 所得税 課税錯誤
H18.2.23高松地裁 所得税 課税錯誤 ×
H7.4.24神戸地裁 所得税 課税錯誤 × ×
H13.3.15東京高裁 所得税 課税錯誤 × ×
H24.1.24国税審判所 贈与税 合意解除 × ×
H2.5.11最高裁 所得税 合意解除 ×
H21.9.16国税審判所 相続税 合意解除 × ×

ちなみに一番初めに記載した通達の取り扱いはこちらです。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640523/01.htm

そして通達の運用はこちらです。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640704/01.htm

その他の判例等の詳細な内容の記載等は省略しますが全体的には、ほぼ課税処分の取消は認められないように見えると思います。

実際その通りで上記には記載していない判例で課税処分の取消が認められなかった事例は多数あります。

逆に課税処分の取消が認められた事例は私の調べた限り上記にあるもののみということになります。

それだけ遡っての契約取消による課税処分の取消はハードルが高いということです。

基本的には課税処分の取消は認められない

先ほども記載した通り、課税処分の取消が認められた事例はほとんどありません。

税負担の錯誤があったとして契約の取消を主張している事例と合意解除により契約の取消を主張している事例とがありますが課税処分の取消判断にはそれほど大きく影響していないようです。

また、契約の取消や合意解除自体は認められても次のステップである課税処分の取消が認められないということになってしまいます。

課税処分の取消が認められないとする考え方のポイントは以下の通りです。

  • 納税者間の公平を害する
  • 租税法律関係を不安定にする
  • 申告納税方式の破壊につながる

以上のような理由から申告期限を経過した後に錯誤による契約取消、合意解除を理由とした課税処分の取消は認められないとされています。

ここで重要なのは「申告期限を経過した後」は認められないということです。

申告期限前であれば認められる余地あり

上記表の一番上の贈与税の通達の運用では、その他にも要件はありますが前提として贈与税の申告書の提出期限までに行われたものであれば贈与契約の取消し又は解除によって当初の贈与契約が無かったことになり贈与税が課税されないこととされています。

上記表の上から二番目の判例は課税処分が取り消された事例ですがこちらは申告期限後であったものの更正の請求期限前であったため認められたというものでした。

さらに上記表の上から三番目の判例では課税処分の取消は認められなかったものの「申告期限までの合意解除は租税回避の動機でも許される」との考え方が示されています。

また上記表の上から四番目の判例は納税者と国との争いではなく夫婦間の争いではあるものの税負担の錯誤を要素の錯誤として認め、さらに財産分与の取消が認められた事例でありその取消が課税処分にもそのまま反映されています。

課税処分が認められるその他のポイント

申告期限(更正の請求期限)前であること以外のポイントについては事例を総合すると以下のようになります。

自ら誤信に気付いたものである

税務調査や税務署からの指導などで指摘されたのではなく自ら誤りに気付き契約を取消・解除していることが必要になります。

申告期限(更正の請求期限)内の1回限りのものである

申告期限(更正の請求期限)内で二転三転したのではなく、1回限りでの取消・解除であることも求められます。

契約内容を取消して名義が元に戻っている

不動産であれば登記も錯誤などにより取消し、株式であれば株主名簿を書き換えするなど正式な法的手続きを経て名義が元に戻っている必要があります。

経済的成果が完全に消失している

不動産でそこから生じる賃料を受取済みであれば元の名義人に返す、株式の配当も受取済みのものがあれば元の名義人に返すといったことをして取消の対象となった契約で一時的に移転したいた資産から生じた収益などは返還しておく必要があります。

申告納税制度の趣旨、構造及び租税法上の信義則に反するとはいえない

これが少し厄介ですが、上記表の一番上の贈与税の通達の運用にもある「税務署長が認める場合」という考え方にも通ずるものだと思います。

上記の条件を満たしたからといって全てが認められるわけではなく、個別の状況・実態を考慮して慎重に判断しますよ、ということかなと。

まとめ

申告期限後に錯誤や合意解除により契約を取消して申告・更正の請求などをすることは基本的には認められないことになります。

まずはそのようなことにならないように契約締結に当たっては課税関係を慎重に検討したうえで臨みましょう。

それでもどうしても契約を取消して課税関係を無しにしたいと思われた場合は上記の考え方をご参考になさってください。

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