平成29年1月に制度が改正され個人型確定拠出年金(iDeCo)が導入されてから以前よりも耳にすることが多くなった確定拠出年金。
今回取り上げるのは今話題の個人型確定拠出年金(iDeCo)ではなく企業型確定拠出年金の方です。
そもそも確定拠出年金とは
企業や加入者が毎月一定額の掛金を拠出する年金制度です。
国民年金や厚生年金の上乗せ部分になります。
ポイントは拠出額は確定していますが給付額が確定していないというところでしょうか。
自分で運用方法を検討して決定します。
運用の結果次第で将来受け取れる年金の額が変わる仕組みです。
企業型確定拠出年金とは
掛金は会社が一定のルールに基づいて拠出してくれます。
掛金は会社の経費になりますね。
会社が拠出した金額に従業員本人が上乗せして拠出できるケースもあります。
個人型でも企業型でも変わらないのは運用方法は自分で決めるという点です。
会社は運用の手助けはしてくれませんよ。(アドバイスぐらいはくれるかもしれませんが)
選択制確定拠出年金(選択制DC)とは
1.給与の一部を掛金に切り替える
従来の確定拠出年金は厚生年金基金・確定給付企業年金などと同じく厚生年金の上乗せ部分として給与とは別のところで会社が掛金を拠出していますよね。
選択制確定拠出年金は給与の一部を掛金に切り替えて拠出します。
2.仕訳で考えてみよう
(1)企業年金制度がない場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
給与手当 | 100 | 現金 | 80 |
源泉税 | 10 | ||
社会保険料 | 10 |
源泉税率・社保料率は気にしないでください。
(2)通常の確定拠出年金の場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
給与手当 | 100 | 現金 | 80 |
源泉税 | 10 | ||
社会保険料 | 10 | ||
退職給付費用 | 10 | 現金 | 10 |
掛金は会社負担として会社の経費・現金流出額が増加。従業員はメリットしかありません。
(3)選択制確定拠出年金の場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
給与手当 | 90 | 現金 | 72 |
源泉税 | 9 | ||
社会保険料 | 9 | ||
退職給付費用 | 10 | 現金 | 10 |
会社の費用負担額は10、現金流出は82になり通常の確定拠出年金より有利です。(社会保険料の会社負担分も減りますからさらにお得です)
一方従業員は手取りが80から72に減少してしまいますので通常の確定拠出年金より不利です。
しかし選択制というところがポイントで(1)のままでいることも選べるのです。
(3)を選択しなかった場合は10の部分は制度上前払退職金と考えるようですが税務上は給与所得になりますので結果(1)と同じになります。
(3)を選択する場合も一見不利に見えますが個人型確定拠出年金に加入するよりは有利と考えることができます。
個人型確定拠出年金に加入する場合は(1)でいうところの源泉後の手取り80から自分で10を拠出して支払う必要があるため最終的な手取りは70になってしまいます。(年末調整時の所得控除は無視です)
そうすると(3)の方が手取りが72なので有利ですよね。
3.従業員のデメリットも議論されている
企業年金を検討している会社にとって、選択制確定拠出年金は会社側は追加の負担がなく(運営管理料等の費用負担はあります)、社会保険料が節約できるので基本的にはメリットのみです。
従業員も個人型確定拠出年金に加入するよりは有利な点もありますが、以下のデメリットに注意が必要です。
・将来受け取る老齢厚生年金が減額になる!
社会保険料の等級が下がって納付保険料が下がるので当たり前ですよね。
そのほか、失業給付、育児休業給付、傷病手当金を受給することになった場合、これらの支給額も減ります。
それ以上に社会保険料等の削減額が圧倒的に大きいという反論もあり慎重な検討が必要なようです。
選択制確定拠出年金(選択制DC)の税務上の取り扱い
1.掛金の扱い
掛金は会社が負担することになりますので支払時に全額損金になります。(法人税法基本通達9-3-1)
支払時であり未払計上による損金算入が認められないことに注意が必要ですね。
また、外形標準課税が適用になる会社は付加価値割の報酬給与額に含まれる点も注意です。
2.運用中の運用損益の扱い
運用中の運用損益については会社の経理からは切り離されているので会社の損益(所得)に影響を及ぼしません。
加入者である従業員の所得にもなりませんね(非課税です)
3.給付金を受け取るとき
給付金については
年金として受け取る場合→雑所得で公的年金等控除が適用
一時金として受け取る場合→退職所得で退職所得控除が適用
となります。
とまあ、ここまでは今までの確定拠出年金や確定給付年金と同様の扱いというところですが、ここからが選択制確定拠出年金独自に注意が必要な扱いです。
選択制確定拠出年金(選択制DC)の税務上の注意点
1.役員の定期同額給与に注意
上の仕訳で見ていただくとお分かりの通り、この制度って税務上の給与が減額になるんですよね。
当然期中でこの制度を導入すると役員は定期同額給与に該当しなくなり損金不算入部分が発生します。
制度上役員のみ加入時期をずらすなど柔軟な設計もできるようなので役員は翌期首から3か月以内の定期同額給与の改定に合わせて導入することをお勧めします。
2.所得拡大促進税制等の優遇税制に注意
実はこれを書きたくてこの記事を書いたんですが、私のクライアントでまさにこれに引っかかってしまった会社がありました。
所得拡大促進税制は簡単に言うと「給与の支給額をアップさせたらその分法人税を減額してあげますよ」という優遇税制ですが上記の通り税務計算上の給与が減少するこの制度は所得拡大促進税制等の優遇税制の判定上不利に働いてしまうんです。
所得拡大促進税制は会社によっては法人税の20%まで減額できますので法人税の納税額が億単位の会社は数千万円、納税額が数千万円単位の会社は数百万円ほど不利になります。
おそらく今後も従業員の給与を対象とした優遇税制は続くでしょうから選択制確定拠出年金導入の際はこの点も検討しておいた方がいいですね。
3.今後の税制改正、通達、質疑応答事例等に注意
本日(平成29年8月12日)時点で国税からは定期同額給与・所得拡大促進税制を含め選択制確定拠出年金に対する税務上の取り扱いについては言及されていないと思われますが、今後税制改正、通達、質疑応答事例等で取り扱いが示されることが考えられますので国税の動向には注意ですね。