令和3年度税制改正で導入された株式交付制度、改正後、実務でもちらほら耳にしておりましたがいよいよ日経新聞で大々的に取り上げられるまでになりましたね。
株式交付で「私的節税」
M&A新手法、資産管理会社に利用 専門家の是非割れる(2022年8月5日 日本経済新聞 朝刊)
今回は資産管理会社へのオーナー株式の移転に株式交付制度を活用する場合についてみていきたいと思います。
株式交付制度の概要
株式交付制度は、「株式会社(買収会社)が他の株式会社(被買収会社)をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付する」制度です。
資産管理会社へオーナー株式を移転する場合で考えると、オーナーが自身の保有する株式(被買収会社)を資産管理会社に譲り渡し、その対価として資産管理会社の株式の交付を受けるという流れです。
ここに金銭のやり取りを含めることもできますが株式のやり取りだけで完結させることがほとんどだと思います。(そうすることにより下記のような税務上のメリットがあるため)
お金を動かさずに書類上のやり取りだけで資産管理会社にオーナー株式が移転できるんですね。
税務上の取扱い
オーナー(株主)の譲渡損益の繰延
オーナーが、株式交付により自身の保有する株式を資産管理会社に譲渡し、その対価として資産管理会社の交付を受けた場合、資産管理会社の株式の価額が交付を受けた金銭と金銭以外の資産の価額の合計額のうちに占める割合が80%以上であれば、その譲渡したオーナー株式の譲渡損益は繰り延べられます(措法37の13の3①,66の2の2①)。
オーナーが対価として取得した資産管理会社の株式の取得価額は原則として、譲渡した株式(もともと持っていた株式)の取得価額を引き継ぎます(措令25の12の3④、39の10の3③一)。
資産管理会社におけるオーナー株式の取得価額
資産管理会社におけるオーナー株式の取得価額は、株主数に応じて以下の通りです(措令39の10の3④一)。
50人未満の株主から取得した場合
株主が有していた当該株式の当該取得の直前における帳簿価額に相当する金額
50人以上の株主から取得した場合
株式交付子会社の前期期末時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額に相当する金額に当該株式交付子会社の当該取得の日における発行済株式の総数のうちに当該取得をした当該株式交付子会社の株式の数の占める割合を乗ずる方法その他財務省令で定める方法により計算した金額
資産管理会社における増加資本金等の額
株式交付は、資産管理会社(株式交付親会社)にとっては、株式交付子会社株式の取得と、その対価としての自己の株式の交付とされます。
よって、以下の算式で計算された金額が増加資本金等の額になります。
<算式>
増加資本金等の額=株式交付子会社株式の取得価額(付随費用を控除)-交付金銭等の額
留意点
- 株式交付は、株式会社が他の「株式会社」を子会社にする制度のため、合同会社などの持分会社や外国会社は対象になりません(会法774の3①一)。
- 子会社でない株式会社を「子会社にする」制度のため、既に子会社である会社の株式を追加取得する場合や取得後に子会社にならない場合には適用できません。
- 子会社は議決権割合50%超の子会社に限定されています(会規3③一、4の2)。
- 資産管理会社株式の評価上、資産管理会社が株式交付によって取得した株式に係る含み益の一部については「評価差額に対する法人税等相当額の控除」が適用されません(財基通186-2)。
- 株式交付制度は、現物出資の一種であると考えられるため、法人税法第132 条の 2 (組織再編成に係る行為又は計算の否認)の対象とされる可能性があります。
- 株式交付により100%子会社となり、グループ通算制度が採用されているグループに加入する場合、一定の場合には時価評価課税の対象となります。
株式交付の手続き
株式交付制度を利用する場合、資産管理会社にて以下の手続きを取る必要があります。
- 株式交付計画の作成(会法774の2)
- 事前開示手続(会法816の2)
- 株式譲渡の申込み及び割当て(会法774の4、5)
- 株主総会決議による承認(会法816の3)
- 反対株主の株式買取請求(会法816の6)
- 債権者異議手続(会法816の8、会規213の7)
- 事後開示手続(会法816の10)
まとめ
オーナー株式を資産管理会社に移す際に、オーナーに多額の譲渡所得税が課税されるケースが多く、資産管理会社設立する際のデメリットになっていることがよくありましたよね。
株式交付制度を活用することにより譲渡所得税の負担なくオーナー株式を資産管理会社に移転することが可能になりました。
ただ、株式交付は新しい制度で実務事例が少なく税務署の対処方針も未知なので注意が必要です。
活用を検討される際は税理士などの専門家にご相談ください!