会社が社長に対して貸付をしていることがありますよね。
金銭消費貸借契約書を作成して貸付しているケースの他、社長が任意で会社の口座から現金を引き出していて結果的に貸付になってしまっているケースや個人的な領収書を会社で精算した結果、経費として処理できずに貸付になってしまっているケースなどもあると思います。
そのように会社が社長に対して貸付をしている状態(貸付残高がある状態)で社長が退任することになった場合、貸付金はどのように処理すればよいでしょうか?
退任前に社長から返済してもらう
最もオーソドックスな方法は退任前に社長から返済してもらう方法ですね。
貸付金に相当する金額を会社の口座に振込してもらえば返済になりますので問題ないです。
一般的には社長の退任時は退職金が支給されることになると思いますので社長自身は返済資金をねん出してもその後すぐに退職金がもらえることになります。
そうすれば社長のお財布もあまり痛まずに済みますね。
退任後に社長から返済してもらう
社長個人に返済資金が無い場合は退任後に返済してもらうことも考えられます。
先ほどのケースのように一般的には社長の退任時は退職金が支給されることになると思いますのでまず会社から社長に退職金を支払い、社長は会社から受け取った退職金で会社からの貸付金を返済するという方法です。
この場合、退職金より貸付金の方が大きいと全額を返済できないことになりますね。
残りはその後分割返済にしてもよいでしょう。
貸付金を退職金として処理する
ここが今回の記事のメインのポイントですね。
社長個人に返済資金が無く、かつ、会社から社長へ退職金を支払う資金もない場合の対処方法です。
「退職金××× / 貸付金×××」という仕訳になるような処理が可能かどうかです。
こちらについて基本的な考え方としては、役員に対する給与には債務の免除による利益その他の経済的利益が含まれます(法法34④、法基通9-2-9参照)ので、法人が役員に対する金銭債権について債務免除をすることによる経済的利益の供与は、その役員に対する給与とされます。
その役員に対する給与が、役員の退任に伴うものであれば、退職給与に該当することとなりますので問題ないですね。
注意点
では実際に貸付金を退職金として処理することになった場合の注意点について考えてみましょう。
株主総会等での決議等が必要
これは言わずもがなですが通常の金銭で支払う退職金と同様、株主総会等での決議等が必要になります。
しっかりと会社法に沿った手続きを経て支給することに注意しましょう。
なお、法務的には貸付金を退職金とする処理は貸付金と退職金の相殺と整理できます。
退職金が合法的に機関決定を受けて会社の支給債務と確定した後においては、当該旧役員に対する未払退職金の額と当該旧役員に対する貸付金の額とは、それぞれ相手方の期限の利益の問題が無いとすれば、直ちに相殺適状の状態にあると考えられますので、旧役員が当該債務履行の手段として退職金受給額をもって相殺することを申し出ることに問題はないものと考えられます。
過大退職金の判定が必要
こちらも金銭で退職金を支払う場合と同様に、貸付金を退職金とした場合もその金額が過大退職金(法法34②)とされないかは注意が必要です。
また、貸付金を退職金とした金額以外に支給される退職金があればそれを含めたところで過大退職金(法法34②)の判定をすることになりますのでご注意ください。
源泉所得税・住民税の納付が必要
退職金として決議等がされた金額から源泉所得税・住民税を控除した金額を貸付金と相殺することになります。
なので貸付金の残高を退職金として決議等してしまうと源泉所得税・住民税の分が貸付金として残ってしまうので注意が必要です。
貸付金から源泉所得税・住民税を控除した金額から逆算した金額を退職金として決議等するようにしましょうね。
仕訳でイメージすると以下のような感じですね。
役員退職金 | 1,675 | / | 役員貸付金 | 1,500 |
/ | 源泉所得税 | 100 | ||
/ | 市町村民税 | 50 | ||
/ | 道府県民税 | 25 |
そして「退職所得の受給に関する申告書」の受領もお忘れなく。
勤続年数と貸付金残高の関係によっては源泉所得税・住民税が発生しないかもしれませんので。
まとめ
社長に対する貸付金は発生させない、発生してもすぐ返済してもらうことが理想ですが様々な事情で社長に対する貸付金が残ってしまうことはありますよね。
社長に対する貸付金が残ったまま社長が退任することになった場合は貸付金を退職金として処理する方法もご検討ください。