税理士業務

手取り額固定で役員報酬を支給することができます!が、注意点もあります!

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役員報酬といえば、1年間は同額(定期同額給与)で変更ができない!

が鉄則ですよね。

定期同額給与とは

その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものを定期同額給与といいます。

そして、期首から3か月以内であれば給与の改定が認められています。

このことから「役員報酬といえば、1年間は同額(定期同額給与)で変更ができない!」と言われているんですね。

ちなみにこの制度の趣旨は期末近くに大きな利益が出ることが分かった際に社長が自分の給与を上げて利益調整をすることを防止するためなどと言われています。

定期同額給与の例外

期首から3か月経過後、翌期まで絶対に給与の改定ができないかというとそんなことはありません。

一部例外が認められています。

臨時改定事由

役員の職制上の地位の変更、役員の職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情によりされた定期給与の額の改定は認められます。

具体的には、役員が病気で入院したことにより当初予定されていた職務の執行が一部できないこととなった場合や、社長が退任したことにともない副社長が新社長に就任するような場合が臨時改定事由に該当します。

業績悪化改定事由

経営状況が著しく悪化したことなどによりされた定期給与の額の改定も認められます。

具体的には、株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から減額せざるを得ない場合や、取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケ協議において、減額せざるを得ない場合 、業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに給与の減額が盛り込まれた場合などが挙げられます。

手取り額固定の定期同額給与もOK

さて、いよいよ本題ですが手取り額固定の定期同額給与もOKです。

平成29年度税制改正で、「定期同額給与」の範囲に、税金・社会保険料の源泉徴収後の金額が同額であるものが定期同額給与に加わりました。

それまでは額面が同額なものが定期同額給与ということでそれしか認められていなかったんです。

役員以外の従業員でもよくあることですが就職、転職の際に給与条件は額面で確認していて実際に給与が振り込まれた際に諸々引かれたら手取りがびっくりするほど少なくなっているということがありますよね。

役員を迎え入れる際もそのようなことでトラブルにならないように手取り額で契約をすることが増えてきているようです。(主に外国から招いてきた役員との契約の際に手取りでの契約を求められることが多いようです)

手取り額を固定させると額面が月によって変動してしまいますので今までの法人税法の規定からすると定期同額給与として認められないことになっていました。

それが改正で認められるようになったんですね。

では早速条文で確認してみましょう。

法⼈税法施⾏令 第69条 定期同額給与の範囲等

2 法第34条第1項第1号及び前項第1号の規定の適⽤については、定期給与の各⽀給時期における⽀給額から源泉税等の額(当該定期給与について所得税法第2条第1項第45号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額、当該定期給与について地⽅税法第1条第1項第9号(⽤語)に規定する特別徴収をされる同項第4号に規定する地⽅税の額、健康保険法第167条第1項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第74条第2項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。)を控除した⾦額が同額である場合には、当該定期給与の当該各⽀給時期における⽀給額は、同額であるものとみなす。

「源泉税等の額を控除した⾦額が同額である場合」は定期同額給与として認められることが規定されていますね。

では源泉税等の額に何が含まれるかより細かく見ていきましょう。

大きく分けると所得税・住民税・社会保険料の3つです。

条文で確認してみましょう。

所得税法第2条第1項第45号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額

四十五 源泉徴収 第4編第1章から第6章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収し及び納付することをいう。

所得税法で源泉徴収が求められているものとご理解いただければ問題ないです。

当然、役員報酬が該当する給与所得に係る源泉徴収も含まれています。

地⽅税法第1条第1項第9号(⽤語)に規定する特別徴収をされる同項第4号に規定する地⽅税の額

九 特別徴収 地方税の徴収について便宜を有する者にこれを徴収させ、且つ、その徴収すべき税金を納入させることをいう。

これも難しく考える必要はありません。

給与から控除する特別徴収の住民税とご理解いただければ問題ないです。

所得税法第74条第2項(社会保険料控除)に規定する社会保険料の額

2 前項に規定する社会保険料とは、次に掲げるものその他これらに準ずるもので政令で定めるもの(第9条第1項第7号(在勤手当の非課税)に掲げる給与に係るものを除く。)をいう。

一 健康保険法(大正11年法律第70号)の規定により被保険者として負担する健康保険の保険料
二 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)の規定による国民健康保険の保険料又は地方税法の規定による国民健康保険税
二の二 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)の規定による保険料
三 介護保険法(平成9年法律第123号)の規定による介護保険の保険料
四 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)の規定により雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
五 国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入員として負担する掛金
六 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
七 厚生年金保険法の規定により被保険者として負担する厚生年金保険の保険料
八 船員保険法の規定により被保険者として負担する船員保険の保険料
九 国家公務員共済組合法の規定による掛金
十 地方公務員等共済組合法の規定による掛金(特別掛金を含む。)
十一 私立学校教職員共済法の規定により加入者として負担する掛金
十二 恩給法第59条(恩給納金)(他の法律において準用する場合を含む。)の規定による納金

ここはしっかりと理解しておく必要があるかもしれません。

役員であれば一の健康保険、三の介護保険、七の厚生年金保険ぐらいしか出てこないと思いますがそれ以外でも該当するものがあれば手取り計算の際の対象になります。

その他これらに類するものの額

「その他これらに類するものの額」も計算の対象に含めることができますが具体例が示されておらず不透明なので基本は所得税・住民税・社会保険料のみと理解しておいた方がよさそうですね。

注意点

計算は結構大変

手取り額を固定する計算は結構大変です。

手取り額を固定しようと思って支給額を変えると所得税が変わってしまうので一筋縄ではいきません。

さらに社会保険料の金額が変わると所得税の金額も変わるためやっかいです。

といってもイメージがわかないかもしれませんが実際に計算してみると結構しんどいんですよ。

支給開始した月は社会保険料の控除がありません(翌月控除を想定)が2月目から社会保険料の控除が始まるのでそこで早速手取り額を再計算する必要が生じます。

例年3月に社会保険料率の改定がありますのでそこでも再計算が必要になります。

そして6月で住民税の金額が新年度のものになり、7月でまた住民税の金額が変わります。

9月には社会保険の算定基礎届による社会保険料の変更があります。

会社の新事業年度になり役員報酬が改定されれば所得税が変わりますが社会保険料の変更は4か月後に遅れてくるので役員報酬の改定の影響も2段階で計算が必要になります。

とまあ想像以上に大変なのです。

節税意欲が湧かない

報酬を支給される側の役員からすると節税意欲が湧かないことになります。

通常だと扶養親族が増えれば所得税、住民税が減り手取りが増えることになりますが所得税、住民税が減ろうが減るまいが手取り額が固定されているので節税対策をして所得税、住民税を減らす必要が無くなってしまいます。

住宅ローン控除もふるさと納税もしなくていいよね、ってな感じになってしまいますね。

と思いきや実はさらに複雑なことがあります。

それは次の項目以降でご確認ください。

年末調整をどう考えるか

年末調整の還付、控除額をどう考えるかも注意が必要です。

年末調整の結果、源泉徴収に不足額が生じて追加で源泉徴収する場合、その源泉徴収税額は所得税法第2条第1項第45号(定義)に規定する「源泉徴収をされる所得税の額」に含まれると思われますので、その金額も考慮して手取り額を固定させる必要があると思われます。

逆に源泉徴収が多すぎて還付になる場合はその金額は「源泉徴収をされる所得税の額」ではなく「還付される所得税の額」なので定期給与の額とは別途のものとして支給するものと整理できるかもしれません。

そうすると、毎月の源泉徴収時には扶養親族がいないものとして多めの源泉徴収をしておき年末調整で扶養控除を初めて適用して還付金を多くもらうことで手取りをさらに増やすことが可能になってしまいます。

確定申告をどう考えるか

上記のように毎月の源泉徴収時には扶養親族がいないものとして多めの源泉徴収をしておき年末調整で扶養控除を初めて適用して還付金を多くもらうことをした場合、基本的には翌年からは毎月の源泉徴収時に扶養親族ありで計算して源泉所得税が少なくなるため2年目以降は適正に計算がされることになります。

しかし年末調整でも扶養親族がゼロであるとしておいて役員自身が確定申告で初めて扶養親族がいることとして還付申告をするとどうなるでしょうか?

源泉徴収をする会社は2年目以降も扶養親族ゼロとして計算することになり手取り額固定のため高い役員報酬を払い続ける必要が生じてしまいます。

さらに確定申告で住宅ローン控除をして所得税がゼロになる人も多くいますが会社には何も言わずに確定申告で源泉所得税を全額還付しているということが起こる可能性もあります。

節税意欲が湧かない、と思いきや実は節税効果が増幅してしまうのですね。

住民税をどう考えるか

所得税の源泉徴収はその月に支給する給与を基本として計算しますが住民税は前年度の所得から計算されます。

1年以上前の役員報酬に対する住民税をその月の給与から控除しているため、役員報酬が年によって大きく変動していると支給と控除がアンバランスになってしまいます。

さらに確定申告をしている場合、給与以外の所得に係る住民税も含まれている可能性があり、そこまで会社が負担して手取り額を固定する必要があるのか?という議論が巻き起こります。

確定申告では会社に通知される特別徴収の住民税は給与所得のみということを選択することが可能ですがそこまで周知徹底しておかないと後々のトラブルに発展する可能性がありますね。

まとめ

手取り額固定の役員報酬はお勧めしません!

一番初めの役員報酬設定時にある程度の目安として手取り額を念頭に役員報酬を決定するのはありだと思います。

その際に、仮に所得が役員報酬だけであった場合の住民税を概算で計算してその住民税を控除した手取り額を試算して検討するのもありですね。

ただ、その金額で確実に固定するのではなく、あくまで目安ということでお互い納得し、額面固定(源泉所得税等の控除前)の役員報酬としましょう。

どこかのタイミングでどちらかが納得できない状況になったら翌期の役員報酬改定でまた話し合うということにすべきと思います。

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