昭和42年に創設された研究開発税制。
ここ数年は毎年のように改正が入っておりますが平成29年度税制改正にて近年では比較的大きな改正がありましたのでざっくりと解説したいと思います。
研究開発税制とは
研究開発税制とは会社が支出した研究開発関連の費用(試験研究費)について、その支出額に一定の割合を乗じて計算した金額を法人税の額から控除できるという税制。いわゆる税額控除といわれる括りになります。
今回の平成29年度改正では支出額に乗じる割合の計算方法の改正と試験研究費の範囲の改正という大きく分けて2つの改正がありました。
計算方法の改正
改正前の制度では「総額型」「増加型と高水準型の選択」「オープンイノベーション型」の3本柱であったものが改正後は「総額型」「高水準型」「オープンイノベーション型」の3本柱になりました。
改正前の「増加型」の考え方は改正後は「総額型」に組み込まれております。
ちなみに今回の改正は平成29年4月1日以後開始事業年度から適用になりますので3月決算法人は進行期から改正後の制度で計算することになりますのでご注意くださいね。
総額型
改正後の総額型では増減試験研究費割合という考え方が登場しました。
改正前の増加型のイメージですね。
増減試験研究費割合とはざっくり説明すると試験研究費の過去3年平均から当期の試験研究費がどれくらい増えたかの割合です。
詳細な計算式は省略しますが増減試験研究費割合に応じて6%から14%の控除率が計算されます。
14%の控除率は平成30年度末までの時限措置でその後は10%が最大の割合となります。
ちなみに新設法人や前期に試験研究費がない法人は増減試験研究費割合はゼロになり控除率は8.5%と計算されます。
あと、中小企業(資本金1億円以下等の要件)は12%から17%の控除率で計算式も多少シンプルになっており大企業に比べて優遇されてますね。
高水準型(改正なし)
高水準型は試験研究費の売上高に占める割合(試験研究費割合といいます)が10%を超えると適用できます。
売上高は当期と過去3年を含めた4年平均の売上高で計算します。
試験研究費割合が増えれば増えるほど控除率が上がる仕組みになっていますね。
しかし、売上の10%が試験研究費って結構攻めてる会社ですよね。
それ以外の経費も考えるとそれで利益が出て法人税が納税になるというと相当儲かってるなという印象です。
オープンイノベーション型
オープンイノベーション型は国とか大学とかまたは他の民間企業とかと共同で研究したり研究を委託したりした際の費用(特別試験研究費といいます)について20%~30%の割合を乗じて算出して金額を法人税から控除できます。
国や大学との共同研究等が控除率30%、民間企業等との共同研究等が20%の割合になっていますね。
今回の改正では計算方法の改正はありませんでしたが対象費用の範囲と手続き面での改正があり改正前より使いやすくなっている印象です。
国全体で一致団結して日本のモノづくりを活性化させたいという意図がよく分かりますね。
試験研究費の範囲の改正
こっちの改正の方が大きい改正かなと思っています。
これまでの製造業によるモノづくりの研究開発に加えて、ビッグデータ等を活用した第4次産業革命型の「サービス」の開発が研究開発税制の対象に含まれました。
対象となるサービス開発の事例
地域を自然災害から守るサービス
ドローンを活用して収集した画像データや気象データ等を組み合わせて分析することで、より精緻でリアルタイムな自然災害予測を通知するサービス
農業を支援するサービス
センサーによって収集した、農作物や土壌に関するデータや気象データ等を組み合わせ分析し、農家が最適な農作業をできるような農業支援情報を配信するサービス
各個人に応じたヘルスケアサービス
各個人の運動や睡眠状況、食事、体重、心拍等の健康データを分析することで、各個人に最適なフィットネスプランや食生活の推奨や、病院受診勧奨を行うサービス
観光サービス
ドローンや人工衛星等を活用して収集した画像データや気象データ、生態系のデータ等を組み合わせて分析することで、高付加価値の観光資源だが発生頻度の低い自然現象等の発生を精緻に予測するサービス
サービスの研究開発には4工程が必要
上記のサービス例にもある通り今回の改正により試験研究費の範囲に含められたサービスは以下の4工程を行うことが必要です。(しっかりと条文にも記載されております)
データの収集
センサー等を活用して、自動的に種々様々なデータを収集
データの分析
専門家が、AI等の情報解析技術によってデータを分析
サービスの設計
データの分析によって得られた一定の法則性を利用した新たなサービスを設計
サービスの適用
当該サービスの再現性を確かめる
試験研究費の範囲
今までの試験研究費の範囲のポイントは以下の通りです。
- 会計上の金額を基本としながらも法人税計算上の損金の額に算入される金額が対象
- 試験研究費に充てるために他の者から支払いを受けた金額(受託研究の対価や補助金等)は差し引く
- 原材料費、人件費、経費など研究開発に関係する費用はすべて対象(実務上、研究開発部門の部門損益計算書から集計するケースも多い)
- 新製品の開発だけでなく既存製品の改良のための試験研究も対象になる
今回の改正で追加されたサービスの研究開発は租税特別措置法の条文上、以下の2つの用語で追加されています。
対価を得て提供する
研究開発の結果出来上がったサービスはお客様からしっかりとお代を頂戴して提供してくださいということです。
新たな役務の提供
いままでにその会社で提供していないサービスということです。
ただしこちらも既存サービスを改良した結果の新たなサービスでも問題ないとされています。
他の部分はいままでの制度と同様の範囲と考えればよいですが、1点注意点があります。
人件費については以下の者に係るものに限るとされています。
「情報の解析に必要な確率論及び統計学に関する知識並びに情報処理に関して必要な知識を有すると認められる者(情報解析専門家)」
なんだかよくわかりませんが、どうやらデータサイエンティストと呼ばれる職業の方が該当するようです。
人件費はデータサイエンティストへの人件費に限られていますのでご注意を。
まとめ
今回の改正でいままで研究開発税制に縁のなかった会社も研究開発税制が適用できる場面がでてきます。
IOTやAIなどITを駆使したサービスを提供している会社は研究開発に多額の資金を投じていることも多いと思います。
改正後の制度を使えば毎年の法人税を大きく減らせるチャンスにつながりますので是非ご検討ください。