中小企業への融資といえば代表者の連帯保証が当たり前でしたが最近は無担保・無保証人の融資もあります。
特に創業融資については会社が軌道に乗る前に借りるものなので代表者の方も、もしも返済が出来なくなった時のことを不安に思われるものと思います。
無担保・無保証人であれば代表者個人の自宅などの個人資産が競売に掛けられることもありませんし、最悪のケースである自己破産に追い込まれることなく、別の事業などで再スタートを切ることが出来ます。
以下、中小企業庁ホームページより引用の開廃業率の推移の国際比較です。
日本は開業率も廃業率も低い割合ですが、欧米各国は開業率も廃業率も高い割合になっています。
欧米各国は、廃業しても、すぐに起業することができるから、開業率も廃業率も高いと言われています。
日本の場合は、創業融資について代表者が個人保証をしているケースがほとんどのため、事業が上手くいかず返済が出来なくなった場合に自己破産となり社会復帰が難しいことが開業率が上がらない一つの要因になっているものと思われます。
前置きが長くなりましたがそんな日本も開業率を欧米各国並みにすることを目標に、現在は無担保・無保証人の創業融資が増えているという話です。
その例を見ていきましょう。
日本政策金融公庫の制度
やはり創業融資の王道は日本政策金融公庫です。
政策金融公庫の融資も代表者の連帯保証が基本となりますが無担保・無保証人の制度もあります。
新創業融資制度
政策金融公庫の創業融資で無担保・無保証人といえばこの制度です。
税務申告を2期終えていない方が対象ですので2期目の決算前まで利用が可能です。
まだ1期も決算を終えていない方は創業資金総額の10分の1以上の自己資金を用意しなければなりません。(現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方などこちらの要件を満たす方は自己資金要件が免除されることもあります)
融資金額が1,000万円を超えると雇用創出等の要件が追加されます。詳しくは、こちらをご覧ください。
また、1,000万円超える金額になると政策金融公庫内の本部決裁となるため審査が通らない可能性が非常に高くなります。
融資限度額は3,000万円とされていますが、実際の平均的な貸出金額は300万円前後ぐらいと言われています。
金利は、だいたい2%ぐらいになりますので低金利と考えてよいです。
返済期間については、運転資金で最長7年以内、設備資金は基本10年以内となります。(金利のみの返済でよい据置期間は2年以内となります。)
以下、政策金融公庫ホームページからの引用です。
ご利用いただける方 | 次の1~3のすべての要件に該当する方
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資金のお使いみち | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
ご返済期間 | 各種融資制度で定めるご返済期間以内 |
利率(年) | こちらをご覧ください。 |
担保・保証人 | 原則不要
※原則、無担保無保証人の融資制度であり、代表者個人には責任が及ばないものとなっております。法人のお客さまがご希望される場合は、代表者(注3)が連帯保証人となることも可能です。その場合は利率が0.1%低減されます。 |
(注1)詳しくは、こちらをご覧ください。
(注2)事業に使用される予定のない資金は、本要件における自己資金には含みません。
(注3)実質的な経営者である方や共同経営者である方を含みます。
中小企業経営力強化資金
中小企業等経営強化法に基づく支援措置として導入された制度です。
新規開業を行う場合は利用でき、もう一つの利用条件として「認定経営革新等支援機関による指導及び助言を受けている」必要があります。
当事務所も認定経営革新等支援機関になっておりますので指導・助言をすることが出来ます。
税理士事務所はほとんどの事務所が認定経営革新等支援機関になっていますのでご相談されるとよろしいかと思います。
無担保・無保証人での借入の場合、融資限度額は2,000万円以内になります。
金利はだいたい2%ぐらいになりますが、実質的な借入限度額とともに、新創業融資制度よりも有利なことが多いです。
返済期間は、設備資金なら20年以内、運転資金なら7年以内です。
形式的には自己資金要件もありません。
新創業融資制度に比べて有利に思えますが上記にもあります通り認定経営革新等支援機関が支援することが条件となっており、借入しようとする方は、事業計画の策定支援等の指導・助言を受けなければなりません。
また、創業計画書よりも細かい事業計画書も必要で、その事業計画の進捗状況も定期的に報告する必要があります。
新創業融資制度に比べて条件面は有利ですが手間がかかるということですね。
以下、政策金融公庫ホームページからの引用です。
ご利用いただける方 | 次のすべてに当てはまる方
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資金のお使いみち | 「ご利用いただける方」に該当する方が、事業計画の実施のために必要とする設備資金および運転資金 | |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) | |
ご返済期間 | 設備資金 | 20年以内 <うち据置期間2年以内> |
運転資金 | 7年以内 <うち据置期間2年以内> |
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利率(年) | ||
担保・保証人 | お客さまのご希望を伺いながらご相談させていただきます。 | |
融資条件など |
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(注)「中小企業の会計に関する指針」および「中小企業の会計に関する基本要領」をいいます。
※お使いみち、ご返済期間、担保の有無などによって異なる利率が適用されます。
挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)
あまりメジャーではありませんが挑戦支援資本強化特例制度も選択肢としてあります。
無担保・無保証人で融資限度額4,000万円です。
「技術・ノウハウ等に新規性がみられる方」「地域経済の活性化にかかる事業を行うこと」という要件があるため新創業融資制度や中小企業経営力強化資金よりかなりハードルが高いです。
融資条件もかなり特殊で借入期間は5年1ヵ月以上15年以内、返済は期日に一括返済で、利率は直近決算の業績に応じて変動(業績が悪ければ利率も低い)します。
さらに借入れた資金は金融検査上自己資本とみなすことができるため資本性ローンと呼ばれており、どういう効果があるかというと金融機関から格付けをされる際に借入でなく資本とみることが出来るので格付けが上がり他の融資が借入しやすくなるということです。
注意をしなければいけないことは、期限前返済ができないことと業績が良ければ利率が上がるということです。
業績が順調で繰り上げ返済可能な資金があるにもかかわらず最高6.2%の金利を払い続けなければならない可能性があるのです。
あとは四半期ごとの報告が求められるという点もあります。
手間としては 新創業融資制度 < 中小企業経営力強化資金 < 挑戦支援資本強化特例制度 となります。
メリット・デメリットを考慮し、選択肢の一つとして考えてもよいものと思います。
以下、政策金融公庫ホームページからの引用です。
ご利用いただける方 | 次の1および2を満たす法人または個人企業の方 | |||||||||||||||||||||||||
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1 適用できる融資制度 | 次の(1)から(12)までのいずれかの融資制度の対象となる方
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2 その他の条件 | 次のいずれの要件も満たす方
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融資限度額 | 4,000万円(1(9)の融資制度に限り、別枠4,000万円となります。) | |||||||||||||||||||||||||
ご返済期間 |
5年1ヵ月以上15年以内 |
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ご返済方法 | 期限一括返済(利息は毎月払) | |||||||||||||||||||||||||
利率(年) | ご融資後1年ごとに、直近決算の業績に応じて、貸付期間ごとに3区分の利率が適用されます
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担保・保証人 | 無担保・無保証人 | |||||||||||||||||||||||||
その他 |
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融資条件など |
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(注1)「技術・ノウハウ等に新規性がみられる方(※)」、「独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている方」、「事業に新規性及び成長性がみられる方(※)」のいずれかにかかる資金に限ります。
(注2)「技術・ノウハウ等に新規性がみられる方(※)」にかかる資金に限ります。
(注3)「新商品・新役務の事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産や役務の提供に6ヵ月以上を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める方」で、「新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方」にかかる資金に限ります。
(注4)「海外直接投資(転貸資金を除く)」にかかる資金に限ります。
(注5)「シンジケートローン特例」を適用しない貸付に限ります。
(※)一定の要件を満たす必要があります。詳しくは、支店の窓口までお問い合わせください。
市区町村の創業融資制度+信用保証協会
創業融資の王道で日本政策金融公庫以外の選択肢といえばいわゆる「制度融資」です。
制度融資は、市区町村の支援のもとで信用保証協会の保証がついて、銀行・信用金庫などが融資する制度です。
この制度融資については、無担保・無保証人での取り扱いが見たらないというのが現状です。
中小企業の思い切った事業展開を応援するため平成26年より「経営者保証に関するガイドライン」の運用が開始されています。
「経営者保証に関するガイドライン」とは、
中小企業の経営者保証に関する契約時及び、保証履行時等における中小企業、経営者及び金融機関による対応についての、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則として、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」において策定・公表されたガイドラインです。(「経営者保証に関するガイドライン」HPより引用)
「ガイドライン」の活用により経営者保証なしの新規融資や経営者保証の解除の可能性、保証債務履行時に一定期間の生計費や自宅等の資産を残せる可能性や引き続き経営に携わって再起を図れる可能性もあるとのことですが、現在の信用保証協会の方針は以下の通りです。
信用保証協会では、下記①、②の要件や法人と経営者との関係の分離状況等を踏まえて、経営者保証を不要として取り扱う運用を行っております。
①取扱金融機関が、信用保証の付かない融資※について、経営者保証を不要としており、担保による保全も図られていない部分がある。※既存の融資か、同時に実行する融資かは問わない。
②直近決算期において債務超過でなく、直近二期連続で減価償却前経常利益が赤字でない。
銀行・金融機関がプロパー融資に無担保・無保証人の取り扱いをしており債務超過・赤字でなければ対応しますということ。なかなか厳しいですね。創業融資では条件を満たしません。
まとめ
創業融資利用時に無担保・無保証人での借り入れを検討するなら日本政策金融公庫に申し込むことになります。
どの制度で申し込むかは融資条件や手間などのメリット・デメリットを比較しながら検討しましょう。
今後は信用保証協会を利用した制度融資についても無担保・無保証人での融資制度が導入されることが望まれます。