創業したての場合、初年度は赤字になることが多いですね。
初期投資が大きかったり売上が思うように上がらなかったりして。
赤字で利益が出ていない場合も確定申告は必要でしょうか。
個人の所得税の確定申告
所得が事業所得のみと仮定して検討します。
まずは所得税法の条文で確認してみましょう。
第120条 確定所得申告
居住者は、その年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が第2章第4節(所得控除)の規定による雑損控除その他の控除の額の合計額を超える場合において、当該総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額からこれらの控除の額を第87条第2項(所得控除の順序)の規定に準じて控除した後の金額をそれぞれ課税総所得金額、課税退職所得金額又は課税山林所得金額とみなして第89条(税率)の規定を適用して計算した場合の所得税の額の合計額が配当控除の額を超えるときは、第123条第1項(確定損失申告)の規定による申告書を提出する場合を除き、第三期(その年の翌年2月16日から3月15日までの期間をいう。以下この節において同じ。)において、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
「ちょっと何言ってるか分からない」ですね。
国税庁のホームページに要約が記載されています。
次の計算において残額がある場合
(計算)
1 各種の所得の合計額(譲渡所得や山林所得を含む)から、所得控除を差し引いて、課税される所得金額を求めます。
2 課税される所得金額に税率を乗じて、所得税額を求めます。
3 所得税額から、配当控除額を差し引きます。
さらに要約しますと「所得から所得控除引いて所得税額を計算し、そこから配当控除引いても残りがあれば確定申告しなければならない」と。
だいぶ要約して正確には少し表現が違いますがだいたいこれでよいです。
そして所得=収入ー経費ですので経費が収入より大きい状態である赤字であればそもそも所得がないので確定申告をする必要はありません。
個人の住民税の確定申告
地方税法を見てみましょう。
第45条の2 個人の道府県民税の申告等
第24条第1項第1号に掲げる者は、3月15日までに、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申告書を、第317条の2第1項の市町村民税に関する申告書と併せて、賦課期日現在における住所所在地の市町村長に提出しなければならない。ただし、第317条の6第1項又は第4項の規定により給与支払報告書又は公的年金等支払報告書を提出する義務がある者から1月1日現在において俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与又は所得税法第35条第3項に規定する公的年金等の支払を受けている者で前年中において給与所得以外の所得又は公的年金等に係る所得以外の所得を有しなかつたもの並びに第317条の2第1項ただし書に規定する市町村の条例で定める者については、この限りでない。
所得税法のように計算の結果税金が出ればというような記載はなく、その自治体に住所がある人は申告書を提出しなければならないことになっています。
「この限りでない」として申告書の提出が求められていないのが勤務先から給与支払報告書が提出された人、日本年金機構等から公的年金等支払報告書が提出された人で給与と年金以外の所得が無かった人です。
もう一パターン地方税法の次の条文で、
第45条の3
第24条第1項第1号の者が前年分の所得税につき所得税法第2条第1項第37号の確定申告書(以下本条において「確定申告書」という。)を提出した場合(政令で定める場合を除く。)には、本節の規定の適用については、当該確定申告書が提出された日に前条第1項から第4項までの規定による申告書が提出されたものとみなす。ただし、同日前に当該申告書が提出された場合は、この限りでない。
となっており、所得税の確定申告書を提出した人は住民税の申告書が提出されたものとみなされますので住民税の申告書は提出不要になります。
今回の検討である事業所得が赤字である人で所得税の確定申告書を提出してない人については、住民税の申告書は提出しなければならないことになりますので注意ですね。
個人の事業税の確定申告
地方税法を見てみましょう。
第72条の55 個人の事業税の賦課徴収に関する申告又は報告の義務
個人の行う事業に対する事業税の納税義務者で、第72条の49の12第1項の規定によつて計算した個人の事業の所得の金額が第72条の49の14第1項の規定による控除額を超えるものは、総務省令の定めるところにより、当該年度の初日の属する年の3月15日までに、当該年の前年中の事業の所得並びに当該年の前年において生じた譲渡損失の金額及び第72条の49の12第2項及び第3項の事業専従者控除に関する事項その他当該事業の所得の計算に必要な事項を事務所又は事業所所在地の道府県知事に申告しなければならない。
所得=収入ー経費が事業主控除(290万円)を超える場合は申告しなければならないことになっています。
一方、次の条文にこのような記載があります。
第72条の55の2
個人の行なう事業に対する事業税の納税義務者が前年分の所得税につき所得税法第2条第1項第37号の確定申告書を提出し、又は道府県民税につき第45条の2第1項の申告書を提出した場合には、本節の規定の適用については、当該申告書が提出された日に前条第1項から第3項までの規定による申告がされたものとみなす。ただし、同日前に当該申告がされた場合は、この限りでない。
所得税の確定申告書か住民税の確定申告書を提出していたら事業税の確定申告書も提出されたものとみなすとのことです。
所得税の確定申告と住民税の確定申告が不要で事業税の確定申告のみが必要というケースが思い当たりませんので事業税の確定申告書を単独で提出することはないと思われます。
(一応、東京都の港都税事務所に個人事業税のみの確定申告がされるケースがあるか聞いたところ、事業廃止の1か月以内申告以外は通常の確定申告を個人事業税単独でされるケースは見たことが無いとのことでした)
法人の法人税の確定申告
こちらもまずは法人税法の条文で確認してみましょう。
第74条 確定申告
内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。一 当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額
二 前号に掲げる所得の金額につき前節(税額の計算)の規定を適用して計算した法人税の額
三 第68条及び第69条(所得税額等の控除)の規定による控除をされるべき金額で前号に掲げる法人税の額の計算上控除しきれなかつたものがある場合には、その控除しきれなかつた金額
四 その内国法人が当該事業年度につき中間申告書を提出した法人である場合には、第2号に掲げる法人税の額から当該申告書に係る中間納付額を控除した金額
五 前号に規定する中間納付額で同号に掲げる金額の計算上控除しきれなかつたものがある場合には、その控除しきれなかつた金額
六 前各号に掲げる金額の計算の基礎その他財務省令で定める事項
所得税と違い「~の場合」の表現が無く、「内国法人は~提出しなければならない」となっています。
つまり黒字であろうが赤字であろうが法人であれば確定申告しなければならないのです。
上記法人税法74条の1項にもありますが欠損金額(赤字の金額)の場合もその金額を書いて確定申告書を提出しましょう。
法人の住民税の確定申告
法人の住民税は地方税法上「法人税に係る申告書を提出する義務がある法人は申告書を提出しなければならない」ことになっています。
法人は赤字法人も全て法人税の確定申告義務がありますので住民税も一緒に確定申告しましょう。
ちなみに所得税のような「所得税の確定申告書を提出した人は住民税の申告書が提出されたものとみなす」規定はありませんので法人の住民税の申告書は必ず提出する必要があります。
法人の事業税の確定申告
法人の事業税も地方税法上、「事業を行う法人は申告しなければならない」となっており確定申告する必要があります。
現在は法人の地方税の申告書は住民税と事業税が1枚にまとまっていますので住民税と事業税を一緒に申告することになりますね。
消費税の確定申告
消費税は個人事業者と法人の区別はありません。
消費税法を見てみますと、
第45条 課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告
事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。ただし、国内における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れがなく、かつ、第4号に掲げる消費税額がない課税期間については、この限りでない。
特定課税仕入れは少しレアケースなので省略しますが、「課税資産の譲渡等」つまり消費税の課税売上がなく、かつ、納付税額がないときは、確定申告の義務はありません。
消費税の計算は所得税や法人税の利益の計算とは異なりますので所得税や法人税が赤字(所得がない)であっても消費税の納付税額が発生し消費税の確定申告が必要になるケースがよくありますので注意が必要です。
まとめ
赤字の場合に確定申告が必要でなくなるのは所得税と個人の事業税の確定申告ぐらいです。
しかもそれらも実は確定申告をしておいた方がよい、というケースがありますのでそれはまた別の投稿で解説いたします。
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