当事務所では創業サポート業務を多く扱っていますがよくある質問の一つに「本店登記はどこにすべきか?」というものがあります。
この質問については以前にこのような投稿をしました。
こちらの投稿は「本店登記はどこにすべきか?」という投稿ではなく「どこで創業すべきか?」という投稿でしたね。
「何が違うの?」と疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
「どこで創業すべきか?」は実態をどこにおくか、実際に仕事をする事務所をどこにおくか、という点での検討でした。
今回の「本店登記はどこにすべきか?」は実際に仕事をする事務所とは別の場所に本店登記をすることについての検討なのです。
何故実際に仕事をする事務所とは別の場所に本店登記をするの?
「何故実際に仕事をする事務所とは別の場所に本店登記をするのか?」と疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
これについてはこの後に記載しますメリットをご覧いただくとご理解いただけると思います。
逆に実際に仕事をする事務所とは別の場所に本店登記をしようと思われている方はデメリットをご覧いただき今一度慎重にご検討いただけるとよいと思います。
本店登記の場所は自由に選べるの?
そもそもの疑問として「本店登記の場所は自由に選べるの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
これについては「本店登記の場所は自由に選べる」ということになります。
会社設立登記や本店移転登記の際に不動産登記簿謄本や賃貸借契約書を提出する必要はありませんので本店登記場所の不動産を保有していたり賃借していたりする必要はありません。
個人が戸籍上の本籍地をどこにしてもいいのと同じような感じですね。
ただし、賃借している自宅を本店登記の場所としたとき、その自宅が賃貸借契約上で「事務所利用不可」となっていると本店登記自体は問題なくできたとしても後々本店登記した事実が賃貸人(不動産オーナー)に知られると賃貸借契約上の問題に発展する可能性がありますので注意が必要ですね。
あとは本店登記をした場所には税務署・年金事務所などの公的機関からの書類や民間企業からのDMなどが郵送されてきますので全く知らない人がいる場所に本店登記をするとそこにいらっしゃる方とトラブルになりますので注意です。
本籍地を皇居にする人が多いということを聞いたことがありますが、そんな感覚で本店登記場所を皇居にしないようにしましょうね。
メリット
さて、ではいよいよ本題に入りますが実際に仕事をする場所とは別の場所に本店登記をするメリットはどのようなものがあるでしょうか。
具体的には以下のものが挙げられます。
対外的な信用度が高くなる
実際に仕事をする場所が自宅でその自宅が住宅街にある場合など、人によっては「自宅でこじんまりやっているんだな」と思われることがあります。
これがビジネスが盛んな一等地に本店登記があることで対外的な信用度が高くなることがあります。
東京の港区、千代田区、中央区などにもバーチャルオフィスがたくさんありますので信用度を高めるためにそれらのバーチャルオフィスを本店登記の場所とされる方は多くいらっしゃいます。
まあ、その場所を検索したり、よく調べればバーチャルオフィスで実態が無いことは分かってしまいますけどね。
名刺やホームページ上の住所など、ぱっと見の印象は良くなりますね。
創業サポートが手厚い自治体を選ぶ
創業サポートが手厚い自治体を選ぶことで創業助成金を受給したり、家賃補助を受けたりすることができる可能性があります。
創業融資についても自治体の制度融資がそれぞれ異なりますので有利な条件のところを選びたいですね。
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21のサイトで各自治体の補助金・助成金・融資制度が検索できます。
支援情報ヘッドラインから地域・種類・分野で条件を絞って検索できるので便利ですよ。
他のサイトより早く確実に最新の情報がアップされていますのでお勧めです。
なお、制度によっては本店登記場所に実態があることが要件になっているケースもありますのでご注意ください。
自宅の住所が対外的に分かりづらくなる
自宅を本店登記の場所とすると国税庁が運営する法人番号公表サイトをはじめ、各種法人情報公開サイトに自宅の住所が掲載されることになります。
公表されている本店登記の場所が自宅かどうかは分かりませんが出来れば公表されたくないですよね。
ただ、自宅以外の場所を本店登記の場所とした場合も代表取締役(社長)の住所は登記が必要になります。
各種公表サイトには社長の住所までは公表されていませんが会社の謄本(履歴事項全部証明書)を法務局で取れば分かってしまいますね。
しかも社長の住所は設立登記時に印鑑証明書を添付する必要がありますので本当の住所以外の住所で登記することはできません。
なので「自宅の住所が対外的に分かりづらくなる」という表現にしています。
自宅の引越しが頻繁に予定されている場合に本店移転登記をしなくて済む
自宅を本店登記の場所とした場合、自宅を引越しすると本店移転登記をする必要が生じます。
会社設立後に自宅の引越しの予定がある方で、どこか自宅とは別の場所で本店登記の場所として差し支えない場所がある方はその自宅以外の場所を本店登記の場所とすることで本店移転登記をしなくて済みますね。
ただ、上記「自宅の住所が対外的に分かりづらくなる」にもあります通り社長の住所は登記が必要になりますので注意ですね。
例えば自宅ではないご実家に住民票を置いていらっしゃる方で自宅の引越しが頻繁に予定されている方は本店登記の場所もご実家とすることで本店移転登記と社長の自宅の移転登記を省略することができます。
税率が低い自治体を選ぶ
法人税や消費税の税率は本店をどこに置いても変わりませんが、法人住民税・法人事業税は自治体ごとに税率が異なります。
「令和〇年度 法人住民税・法人事業税 税率一覧表」と検索していただくと総務省のホームページが検索結果に出てくると思います。
そこで各自治体の税率が確認できます。
正直なところ見づらい表だと思いますので専門家に相談するのが良いと思います。
ただどこの自治体でもそれほど大きな差にはならないです。
大阪府の法人府民税均等割が少し差が大きくなるかなといったところです。
ただそれも資本金等の額が1億円超の場合に税率が低いと県と比べて倍になるという感じで中小企業には影響はないですね。
ちなみに資本金等の額が50億円超の場合、神奈川県の法人県民税均等割は年額80万円ですが、大阪府の法人府民税均等割は年額160万円になるといった感じです。
また税率差については全ての自治体の全てのケースを完全に把握しているわけではありませんが1%の差が生じることは無いと思われます。
ただ仮に1%の差が生じた場合、利益が1億円であれば100万円の差になりますので、均等割のケースと同様に規模が大きい会社は検討する必要があるかもしれませんね。
注意点としては毎年ではないにしろ税率の改正はありますので税率が低いと思っていた自治体の税率が変更になって高くなってしまう可能性があります。
税率改正の動向にはご注意くださいね。
健康保険料率が低い都道府県を選ぶ
厚生年金保険料率や雇用保険料率などは本店をどこに置いても変わりませんが、協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに保険料率が異なります。
「都道府県毎の保険料率」と検索していただくと協会けんぽのホームページが検索結果に出てくると思います。
そこで各都道府県の保険料率が確認できます。
正直なところ見づらい表だと思いますので専門家に相談するのが良いと思います。
ただどこの都道府県でもそれほど大きな差にはならないです。
料率は毎年変更になりますが最も高い都道府県と最も低い都道府県で1%前後の差に収まると思います。
ただ従業員数によっては大きな差が生じる可能性がありますのでやはり規模が大きい会社は検討する必要があるかもしれませんね。
そしてこちらも保険料率の改定にはご注意ください。
デメリット
では、逆に実際に仕事をする場所とは別の場所に本店登記をするデメリットはどのようなものがあるでしょうか。
具体的には以下のものが挙げられます。
各種郵送物が本店登記した場所に届く
冒頭でも記載しましたが、本店登記をした場所には税務署・年金事務所などの公的機関からの書類や民間企業からのDMなどが郵送されてきます。
知人のオフィスを本店登記の場所とした場合、その知人に郵送物の管理保管をお願いする必要がありますので注意が必要です。
バーチャルオフィスなどでは郵便物転送サービスがついているところがありますのでそのサービスが利用できれば問題無いですね。
なお、税務署・年金事務所なども書類郵送先変更の届出をすることで本店登記の場所とは別の場所に届けることが可能ですが協会けんぽが発行する健康保険の保険証など変更不可のものもあります。
郵便局の転送サービスを利用できることもありますが重要な書類は転送不要郵便で送られてくることがありますのでそのような郵便は受け取れなくなります。
また、取引先、銀行、クレジットカード会社なども書類関係は基本的には本店所在地に郵送等をしてきますので「本店所在地に実態がないので別の場所に送ってほしい」と伝える必要があり結構手間がかかりますね。
銀行取引などは本店近くの銀行に限られるケースがある
預金はネット専業銀行であれば問題ないと思いますが融資は基本的には本店のあるエリア内の銀行に申し込むことになります。
さらにバーチャルオフィスの場合、銀行によっては預金口座の開設、融資の審査が難しくなるケースがありますので注意が必要です。
なお、日本政策金融公庫の融資はエリアの考え方が柔軟なので本店と申込店舗が離れていても問題ないことがあります。
各種役所での手続きが本店管轄の所での手続き
納税証明書の取得など各種役所での手続きが本店管轄の税務署、年金事務所、市区町村での手続きになります。
ただ、今はオンライン申請、郵送取得できるものが多いので場所の遠さが問題になるケースは少ないと思われます。
とはいいつつも急に、今すぐ必要、となったときに近い場所で取得できた方がよいこともありますのでご注意ください。
許認可取得が必要な業種は要注意
許認可の種類によっては本店登記の場所に実態が無くても問題にならないケースがありますが、自社が取得しようとする許認可がどうなのか注意が必要です。
例えば建設業許可の場合は、本店登記の場所に実態が無くても問題ありませんが、建設業許可と併せて取得されることがある宅建業免許では本店登記の場所に実態が無ければなりません。
許認可取得が必要な業種を行う予定の方は事前にしっかり確認するようにしましょう。
まとめ
会社設立登記をする際、本店登記の場所についてはメリット・デメリットをよく検討して慎重に決定しましょう!