税理士業務

事業適応計画の認定制度がスタートしました!

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改正産業競争力強化法の施行に伴って各種税制措置等の適用に必要な事業適応計画の認定制度が8月2日からスタートしました。

制度創設の背景

事業適応計画の認定制度創設の背景は以下の通りです。(経済産業省資料より引用)

我が国の事業者は、人口減少社会などの構造的変化に加えて、米中貿易摩擦に代表される保護主義的な動きの台頭、地政学的リスクの高まり、急激な気候変動や自然災害、非連続な技術革新などの外生的・突発的に生ずる環境変化に常に晒されている。特に令和2年1月以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大等による影響を受け、我が国経済は戦後最大の落ち込みを記録し、危機に直面しているが、これは、「新たな日常」への構造変化を図るチャンスでもある。
こうした山積する課題に対し、成長戦略としての2050年カーボンニュートラルの実現、デジタル化への対応、「新たな日常」に向けた事業再構築など、必要な取組を進めることで、我が国産業の持続的な発展を図ることが重要である。併せて、サプライチェーンの再構築をはじめとするレジリエンスの強化も進めていく必要がある。

事業適応とは

「事業適応」は3つの類型が存在し、定義は次のとおりです。

成長発展事業適応

ポストコロナに向け厳しい経営環境の中で赤字でも努力を惜しまず、カーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等に向けた投資を行い、経営改革に果敢に取り組むことをいいます。

情報技術事業適応

デジタル技術の革新により世界で破壊的なイノベーションが起きていることを踏まえ、こうした動きに対応していくべく、DXに取り組むことをいいます。

エネルギー利用環境負荷低減事業適応

気候変動問題への対応を成長の機会ととらえる国際的な潮流が加速している中、こうした潮流に対応し2050年カーボンニュートラルを実現すべく、脱炭素化効果が高い製品の普及や生産工程等の脱炭素化に取り組むことをいいます。

事業適応計画の申請と認定

事業適応計画の認定を受けたい事業者は、事業適応計画の認定申請書を作成し、その事業適応に係る事業分野を所管する業所管大臣に提出し、審査・認定を受ける必要があります。

所管大臣は、実施指針・事業分野別実施指針等に照らして、その内容を審査した上で、認定することになっています。

詳細な解説は省略しますが認定のためにはそれぞれの類型ごとに以下のような細かい要件があります。

(経済産業省の資料から引用)

なお、申請は原則WEB申請にて受付されています。

税制措置の要件について

事業適応計画の認定を必要とする税制措置は「カーボンニュートラル(CN)投資促進税制」「DX投資促進税制」「繰越欠損金の控除上限の引上げ」の3つです。

①成長発展事業適応、②情報技術事業適応を実施する場合、「課税の特例」の要件を満たすことで、それぞれ①「繰越欠損金の控除上限の引上げ」、②「DX投資促進税制」の適用を受けることが可能になります。

なお、「課税の特例」の要件を満たすことで、一部の事業適応計画の認定要件を満たす仕組みになっているので満たすべき要件が増えるわけではありません。

(経済産業省の資料から引用)

「★」マークの要件を満たすことで、対応する実施指針の認定要件も満たすことになります。

支援措置

支援措置は税制以外も含め5つあります。

指定金融機関による長期・低利の大規模融資(ツーステップローン)

詳細な解説は省略しますが以下の経済産業省資料からの引用をご確認ください。

指定金融機関による成果連動型低利融資制度(利子補給)

制度スキームの流れはツーステップローンと同じです。(国から日本政策金融公庫を通して指定金融機関に利子補給されます)

条件としては融資期間は7年以上、融資金額規模は下限無し(1社当たり500億円が上限)、利子補給の支給期間は最大10年間、などとなっています。

利子補給を受ける場合には、計画期間終了時に達成を目指す目標に加え、計画達成のマイルストーンとなる期中目標を、3回以上設ける必要があります。

そして、計画認定を受けた事業者に対して、0.1%幅の利下げを実施(最初の期中目標まで)されます。

その上で、計画期間において、あらかじめマイルストーンとして定める期中目標を達成できた場合には、最大0.2%幅までの利下げが実施されます。

繰越欠損金の課税の特例

特例の対象となる欠損金

原則として、令和2年4月1日から令和3年4月1までの期間内の日を含む1又は2事業年度において、新型コロナウイルス感染症の影響により生じた欠損金が対象です。

例外的に、令和2年2月1日から同年3月31日までの間に終了した事業年度において生じた欠損金も一定の定性・定量要件を満たす場合には対象になりますがいずれにせよ、最大2事業年度ということです。

控除上限を引き上げる期間

黒字化後最長5年間

特例による控除上限の引き上げ額

認定計画に基づき実施した投資について、事業者の申請に基づき所管大臣が毎年証明することになります。

企業は証明された投資額の範囲内で、最大100%の特例を受けることが可能です。

(経済産業省資料より引用)

DX投資促進税制

以前解説したこちらの投稿をご確認ください。

【ざっくり解説】デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制

CN投資促進税制

①大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備、②生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入に対して、最大10%の税額控除又は50%の特別償却が措置されています。

措置対象となる投資額は、500億円までで、控除税額は、DX投資促進税制と合計で法人税額の20%までとなっています。

なお、①大きな脱炭素化効果を持つ製品は、以下の商品です。

① 化合物パワー半導体
※ 電力の制御若しくは電気信号の整流を行う化合物半導体素子又は当該素子の製造に用いられる化合物半導体基板が対象です。
② EV又はPHEV向けリチウムイオン蓄電池
※ 電気自動車又はプラグインハイブリッド自動車を構成するリチウムイオン蓄電池が対象です。
③ 定置用リチウムイオン蓄電池
※ 定置用リチウムイオン蓄電池(7,300回の充放電後に定格容量の60%以上の放電容量を有するものに限る。)が対象です。
④ 燃料電池
※燃料電池(定格運転時における低位発熱量基準の発電効率が50%以上であるもの若しくは総合エネルギー効率が97%以上であるもの又は水素のみを燃料とするものに限る。)が対象です。
⑤ 洋上風力発電設備の主要専門部品
※ 洋上風力発電設備(一基あたりの定格出力が9MW以上であるものに限る。)を構成する商品のうち、次に掲げるものが対象です。
ナセル、発電機、増速機、軸受、タワー、基礎

②生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備導入については、設備投資による効果以外も含めて、炭素生産性を3年以内に7%以上向上させる計画を作成し、認定を受けます。

そして、計画に記載された設備のうち、設備導入前後の事業所の炭素生産性を1%以上向上させる設備の投資に対して、税制措置が適用されます。

申請手続のスケジュール

事前相談

要件に合致するかどうかを事前に確認する必要があります。

事前相談の開始から正式申請までに要する期間は個別の進捗によるとされていますが概ね1~2ヵ月程度とのことです。

計画の申請(審査開始)

WEBにて所定の申請書と添付書類を提出し審査が開始されます。

課税の特例への適合確認申請

繰越欠損金の控除上限の特例又はDX投資促進税制の適用を受ける場合、課税の特例(要件)への適合性の確認は、計画の審査プロセスと併せて行われます。

課税の特例(要件)への適合性が確認された場合は、その旨が認定書又は確認書に表示されます。

計画の認定(計画開始)

CN投資促進税制の適用を受ける場合も、計画に定める投資設備が税制対象設備であることの確認は、計画の審査プロセスと併せて行われますが、こちらは「確認書」などの別の文書交付はありません。

税制対象投資の実施

DX投資促進税制、CN投資促進税制の適用期間内に設備等を製作・取得し、その事業の用に供した場合に、法人税の特例措置(税額控除・特別償却)の適用を受けることが可能になります。

証明書発行

繰越欠損金の控除上限の特例の適用を受ける場合、投資の内容が税制対象であること等の事後証明書の発行を税務申告までに認定省庁から受けることが必要です。

その後の対応

計画期間中の毎事業年度、計画の実施状況について、所定の様式に従って実施状況報告書を提出する必要があります。

報告書の提出時期は原則、認定事業者の事業年度終了後3ヶ月以内となり、毎年度提出が必要です。(公表もされます)

まとめ

ご覧いただいた通り正直なところ多くの一般的な中小企業では適用のハードルは高く、得られる各種措置のメリットより申請の手間などのデメリットの方が大きいように思われます。

ただ、メリットの方が大きくなる企業も一定数存在すると思いますのでじっくりと検討しメリットの方が大きければ挑戦したい制度ですね!

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