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個人事業を廃止した場合の事業税の見込控除と事業税の申告について

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ここ最近私のお客様の中で個人事業から法人成りされる方が何件か続いていらっしゃいました。

個人事業から法人成りする場合の所得税計算の注意点として個人事業税の見込控除を忘れずにするということがあります。

今回はこのことに関連して事業税の申告との関係を整理してみたいと思います。

事業税の見込控除とは

まず基本的なこととして事業税の見込控除とはどのような内容か改めて確認します。

個人事業者が法人成りすると法人成り後に発生する経費は法人の経費になります。

そして個人事業としての経費については法人成り後に支払うものであっても法人の経費とすることはできません。

通常、個人事業時代に発生した経費は遅くても法人成り後1~2か月後には確定すると思いますので翌年3月15日までに必要な所得税の確定申告には経費計上が間に合うことになります。

ただ、事業税だけは通常の流れであると所得税の確定申告をした後、その年の8月ごろに納税通知書が届くことになります。

例えば今日(令和3年11月12日)法人成りした場合、令和3年分の事業税の通知書が届くのは来年令和4年8月になります。

この事業税は個人事業としての経費ということになるのですが令和4年は法人としてのみ活動していいるので個人事業の経費にも法人の経費にもできないことになってしまいます。

このことを救済する措置として事業税の見込控除が認められているのです。

具体的には所得税法基本通達37-7(事業を廃止した年分の所得につき課税される事業税の見込控除)に記載があります。

事業税を課税される事業を営む者が当該事業を廃止した場合における当該廃止した年分の所得につき課税される事業税については、37-6にかかわらず、当該事業税の課税見込額を当該年分の当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができるものとする。この場合において、当該事業税の課税見込額は、次の算式により計算した金額とする。

 (A±B)R ÷ (1+R)
A……事業税の課税見込額を控除する前の当該年分の当該事業に係る所得の金額

B……事業税の課税標準の計算上Aの金額に加算し又は減算する金額

R……事業税の税率

個人事業の廃止届

事業税の見込控除の通達に「事業を営む者が当該事業を廃止した場合」とありますので税務署に対して事業を廃止したことを伝えておく必要がありますね。

以下のページに届出書がありますので忘れずに出しておきましょう。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm

そのほか、青色申告・消費税・給与支払事務所についても廃止等の届出の必要がある可能性がありますのでそれぞれの事情に照らして判断しましょうね。

そして同様に都道府県にも廃業届を出す必要があります。

さらに都道府県には、年の中途で事業を廃止した場合は、所得税の確定申告や住民税の申告とは別に、廃止の日から1か月以内(死亡による廃止の場合は4か月以内)に個人の事業税の申告をしなければなりません。

このあたりについて、詳しくはこちらの記事をご確認ください。

法人成の際の個人事業廃業手続き

事業税の見込控除と事業税の申告の関係

さて、ここまで見てきて疑問に思うことはありませんか?

事業税の見込控除の計算式をもう一度確認してみましょう。

(A±B)R ÷ (1+R)

分母の(1+R)は何を意味しているのでしょうか?

これは、事業税が所得税・事業税計算上の経費になることで事業税の納税額が少なくなることを考慮するためのものです。

計算例で確認してみましょう。

(A)所得税の課税所得 10,000,000
(B)事業主控除 2,900,000
(R)事業税率 5%
事業税額((A-B)×R)= 355,000

これが分子ですね。

この金額を事業税の納税見込額として見込控除するとどうなるでしょうか?

(A)所得税の課税所得 10,000,000
(見)見込控除額 355,000
(B)事業主控除 2,900,000
(R)事業税率 5%
事業税額((A-見-B)×R)= 337,250

見込控除として355,000円を計算したのに実際の事業税額は337,250円になってしまいますよね。

これを正しくするために分母の(1+R)があるのです。

(A)所得税の課税所得 10,000,000
(B)事業主控除 2,900,000
(R)事業税率 5%
事業税額((A-B)×R)= 355,000
事業税額÷(1+R) = 338,095

検証のためこの金額を見込控除してみましょう。

(A)所得税の課税所得 10,000,000
(見)見込控除額 338,095
(B)事業主控除 2,900,000
(R)事業税率 5%
事業税額((A-見-B)×R)= 338,095

うん、見込控除額と実際の事業税額が一致しましたね。

所得税の確定申告前に事業税の申告をした場合

所得税の確定申告前に単体で事業税の申告をした場合、その事業税の申告における課税所得には事業税の見込控除がされていないはずです。

年の初めごろに法人成りして事業税の申告をした場合などはその年中に事業税の納税通知書が届き納税まで完了している可能性があります。

この場合は所得税の確定申告時に事業税の見込控除をせず通常通り納付額にて経費計上すれば問題ないですね。

年の終わりごろに法人成りして事業税の申告をした場合で、翌年の確定申告までに納税通知書が届いていればその金額で未払事業税として経費計上すれば問題になることはないでしょう。

翌年の確定申告までに納税通知書が届かなかった場合は、見込控除をすることになりますがその際には上記の計算式の分母の(1+R)を入れないように注意しましょうね。

まとめ

けっこうややこしくて難しい内容ですよね。

自分向けの備忘記録でまとめてみました。

税理士以外の方がご自身で申告される場合は税務署、都道府県税事務所などとよく相談しながら計算してみていただければ幸いです!

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