インボイス制度の開始まで残り約2か月ですね。
今回はインボイス制度開始後の対応について現実的にどこまで対応すべきか(できるか)について個人的な意見を発信してみたいと思います!
原則的で厳密な細かい部分は極力排除して現実的にここだけは対応しておくべきという部分の記載に絞っています。
網羅できていない業種もあると思いますがその点はご容赦ください。
なお、インボイス制度に登録している事業者を前提に考えますので登録すべきか否かで検討されている方は以下の記事などをご覧ください。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)と免税事業者
売上について
売上については法人(個人事業者を含む)を相手にしているか、個人(消費者に限る)を相手にしているかで大きく2つに分かれますね。
法人を相手にしている場合
まずは取引の相手方(課税事業者に限ります。)からインボイスの交付を求められたときは、交付義務があることにご留意ください。
法人が相手でも相手方が免税事業者であれば交付義務はないですね。
ただ、相手方が免税事業者かどうかは分かりませんので法人が相手の場合はインボイスを交付しておくことが無難ですね。
インボイスとは
では交付すべきインボイスとはどういうものでしょうか?
正確に把握しておく必要がありますね。
インボイスとは次の事項が記載された書類をいいます。
- 自社(自分)の氏名又は名称及び登録番号
- 取引を行った年月日
- 取引の内容(軽減税率対象である場合はその旨も)
- 取引の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額
- 書類の交付を受ける相手事業者の氏名又は名称
なお請求書、納品書、領収書、レシート等その書類の形式は問いません。
いずれかの形式で交付すればOKですね。
1.の氏名又は名称と2.3.6.は問題なく今までも記載されているのではないでしょうか?
1.の登録番号も既に記載されている法人が多いですよね。
問題は4.と5.ですね。
総額だけ記載して税率や税額を記載していないケースもあるのではないでしょうか?
10月1日からは税率ごとに区分してさらに消費税額もしっかりと明示しましょう!
個人を相手にしている場合
個人を相手にしている場合も法人の時と同様、相手方(課税事業者に限ります。)からインボイスの交付を求められたときは、交付義務があることにご留意ください。
ここでイメージしているのは消費者個人風の課税事業者です。
分かりやすく言うと会社役員、従業員が経費精算で飲食店・タクシーなどを利用するケースですね。
インボイスとしての領収書を求められたら交付できるように準備しておきましょう。
簡易インボイスも可
個人を相手にしていることがほとんどの下記の事業では簡易インボイスなるものが認められています。
- 小売業
- 飲食店業
- 写真業
- 旅行業
- タクシー業
- 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります。)
- その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業
簡易インボイスの記載事項
簡易インボイスは通常のインボイスの記載事項と比べると、「書類の交付を受ける相手事業者の氏名又は名称」の記載が不要である点、「税率ごとに区分した消費税額」又は「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる点が異なります。
具体的な記載事項は、次のとおりです。
- 自社(自分)の氏名又は名称及び登録番号
- 取引を行った年月日
- 取引の内容(軽減税率対象である場合はその旨も)
- 取引の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
- 税率ごとに区分した消費税額または適用税率
相手の名前を書く必要が無いので忙しい飲食店などでも対応可能ですね。
そして適用税率を書いておけば消費税額は書かなくてもOKなので税込金額の横に消費税率10%(または8%)という表示でOKですね。
なお、手書きの領収書を発行していて自社の名称とか住所・電話番号をゴム印で対応されている場合は登録番号のゴム印も新しく作った方がよさそうですね。
会計ソフトへの入力
会計ソフトへの入力は特に今までと変更する必要はありません。
課税なのか非課税なのか、消費税率は8%か10%かその辺りを今まで通りに入力すれば問題になることは無いですね。
仕入・経費等について
仕入・経費等については原則課税か簡易課税(2割特例含む)かで大きく異なりますね。
簡易課税(2割特例含む)の場合
簡易課税(2割特例含む)の場合、仕入・経費等のこちらが支払う消費税については全て無視でOKです!
請求書領収書等の確認が不要ですし、会計ソフトへの入力も気を使う必要はなく今まで通りで問題ありません。
これは楽ですよね。
簡易課税というだけはあります。
一応念のため言っておくと消費税計算上は仕入・経費等については全て無視、請求書領収書等の確認不要ということですよ。
法人税計算上は証憑として必要になりますのでしっかりと保存はしておきましょうね。
原則課税の場合
原則課税の場合は原則的には仕入・経費等のこちらが支払う消費税について、ひとつひとつの請求書領収書等がインボイス制度の要件を満たしたインボイスかどうか確認する必要がありますね。
ではさらに細かく見ていきましょう。
法人(個人事業者含む)の取引先に仕入・外注費などを支払う場合
法人の取引先に仕入・外注費などを支払う場合は請求書をもらうことが一般的ですよね。
請求書が無くても見積書や領収書はあるはずです。
これらに登録番号があることを確認しておきましょう。
登録番号については本当に存在する番号なのかを確認する必要がありますが現実的には全ての請求書の確認をするのは時間的に難しい場合もあると思います。
そのような場合は1万円以上、10万円以上など自社でルールを決めて確認する対象を絞ることも現実的な対応として考えられますね。
存在しない番号を記載しているケースはほとんどないでしょうし、存在しない番号であった場合も控除できなくなる金額は1万円で100円、10万円で1,000円ですから実務的な影響は僅少と考えられると思います。
あとこれは今までも気にしておくべき箇所ですが税率8%の仕入がいくらで税率10%の仕入がいくらなのか、内訳の確認ですね。
今までも問題なく記載されているはずですが確認をしておきましょう。
口座振替など請求書・領収書のない家賃などの支払
こちらについては別途の記事にしていますのでご確認ください。
家賃など口座振替で請求書が無い場合のインボイス制度の対応について!
ここまでするのが完璧ですが現実的な対応としてはオーナーの登録番号を確認しておくという対応になると思います。
法人であれば法人番号から登録番号の検索ができますので簡単に確認できますね。
個人の場合は登録番号の検索ができないので個別に直接確認しておくことをお勧めします。
金額もそれなりに大きくなり、かつ今後も経常的に発生するものですので後々「登録番号が無かった」ということになると影響も大きいでしょうからね。
飲食店・小売店・タクシー・コインパーキングなど
売上側で解説した簡易インボイスでも対応可なものですね。
これらも基本は登録番号が書いてあることと税率が書いてあることに注意しましょう。
簡易インボイスは領収書であることがほとんどだと思いますが受け取ったときにぱっと確認して登録番号が無い、税率の記載が無い場合はその場で書いてもらった方がいいですね。
そもそも登録番号を持っていなければ仕方ないですが。
税率は明らかに10%ならば実務的には問題になることは無いでしょうけど飲食店で店内飲食もテイクアウトもできる場合や、小売店で飲食料品とそれ以外も販売している場合などは税率ごとに明記してもらった方がいいですね。
ただ、10%か8%か2%の差なので思い切ってどちらかにしてしまっても大きな問題になることは無いと思いますが。
領収書をもらったその場のひとことで解決できるならばしておきたい部分ですね。
原則課税でも支払ったインボイスを無視できる場合
原則課税でも支払った仕入・経費などのインボイスを無視できる場合があります。
請求書、領収書がなくても仕入税額控除がOKになるケースですね。
公共交通機関の利用
3万円未満の公共交通機関による旅客の運送については、領収書がなくても仕入税額控除がOKです。
電車とかバスですね。
3万円以上の場合はインボイスが必要なので新幹線や飛行機に乗った場合はご注意くださいね。
また、3万円未満かどうかは1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定します。
1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することにはなりません。
具体例としては、東京‐新大阪間の新幹線の大人運賃が13,000 円であった場合、4人分であれば、4人分の合計52,000 円で判定することとなります。
出張旅費、宿泊費、日当等
社員に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、領収書がなくても仕入税額控除がOKです。
日当はそもそもインボイスが無いと思いますが旅費や宿泊費は従業員は交通機関やホテルからインボイスをもらっていますよね。
それをもって経費精算するわけです。
ただそれは貴社宛てのインボイスでなく、従業員宛てのインボイスのため厳密にいうと貴社の消費税計算上のインボイスとしては扱えないわけです。
なのでそれらについては無くてもOKにしたわけですね。
ただ、法人税や所得税の点から、そもそも支払っている事実の確認のために従業員宛ての領収書は保存しておくことをお勧めしますよ。
この扱いができる範囲については所得税基本通達9-3に基づき判定しますので、所得税が非課税となる範囲内で、インボイスが不要になりますのでご注意ください。
通勤手当
従業員の通勤手当も上記、出張旅費、宿泊費、日当等と同じような考え方でインボイスは不要になります。
なお、通勤に通常必要と認められるものであればよく、所得税法施行令第20条の2において規定される非課税とされる通勤手当の金額を超えているかどうかは問いませんのでご安心ください。
3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
自動販売機による飲食料品の販売、コインロッカーやコインランドリー、金融機関のATMによる手数料などがこれに該当しますね。
領収書が出なくても問題ありませんのでご安心ください。
郵便切手でポストに出した郵便等
郵便切手は購入時は非課税でポストに出したときに課税仕入になりますね。
ただ、継続して購入時に課税仕入とする処理も認められているのでほとんどの方はそのように処理されていると思います。
購入時は非課税なので「インボイスが無い!」とならないように、この考え方が措置されているのですね。
少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)
基準期間(一般的には2期前)の課税売上高が1億円以下又は特定期間(一般的には前期の前半の半年間)の課税売上高が5千万円以下である場合、1万円未満のインボイスは保存不要になります。
ただしこれは令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間限定ですのでこの間にそれ以降の準備をしておきましょうね。
従業員や取引先が立替えた経費等(原則課税の時)
従業員が経費精算で提出した経費等の領収書等や、取引先(外注先など)が報酬の請求と同時に請求してきた経費等についてはどう考えればよいかという疑問が湧いてくると思います。
これらについてはまず、上記の「原則課税でも支払ったインボイスを無視できる場合」に該当すれば同じく無視でOKです。
では無視できない場合にはどうすればよいでしょうか。
自社宛てのインボイスを取得してもらう
まずは従業員や取引先が経費等を支払う際に自社(経費精算で支払う側の貴社です)宛ての領収書等をインボイスとして取得してもらう方法が考えられます。
それをインボイスとして保存しておけば問題ないですね。
自社宛てに経費精算書・立替金精算書を作成してもらう
事前に「自社宛てのインボイスを取得してもらう」の方法を従業員や取引先に伝えていればそれで問題ないのですが、精算する時点で従業員や取引先宛ての領収書等であったことが判明するケースも多いと思います。
この場合は従業員や取引先宛ての領収書等を使用してもOKです。
ただし、別途きちんと経費精算書・立替金精算書等を作成してもらい従業員や取引先から自社宛てに精算の請求がされていることを明らかにしておきましょう。
この対応で問題ありません。
会計ソフトへの入力(原則課税の時)
こちらは各社対応が進んでいるところです。
基本的な内容を確認しながら、私がメインで使っている弥生会計の例をご説明しますね。
登録番号の入力は不要
仕入、経費などの項目を入力する場合、登録番号の入力は不要です。
消費税法上でも帳簿に登録番号の記載の必要はないことが明示されていますのでご安心ください。
登録番号の有り無しは選択すべし
登録番号の入力は不要ですが仕入、経費などの請求書等の発行事業者が登録番号を持っていて、その請求書等がインボイスに該当するか否かは選択する必要があります。
インボイスに該当しない請求書の仕入税額控除が認められないためです。
弥生会計では「請求書区分」という欄があり、「適格」か「区分記載」を選択することになります。
「適格」=登録番号のあるインボイスですね。
それ以外(登録番号が無いもの)は「区分記載」を選んでおけばOKです。
「適格」=登録番号のあるインボイスの場合は100%仕入税額控除ができるため「仕入税額控除」の欄は100%しか選べませんが、「区分記載」を選んだ場合は次の「免税事業者からの仕入れに係る経過措置」の適用ができるかにより選択すべき項目が変わります。
弥生会計の入力画面イメージは以下の通りです。
(弥生会計のホームページより引用)
免税事業者からの仕入れに係る経過措置
登録番号を持っていない免税事業者からの仕入は仕入税額控除ができない、ということが原則ですが一定期間は経過措置により一定割合の仕入税額控除が認められています。
経過措置を適用できる期間等は、次のとおりです。
期間 | 割合 |
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
この経過措置を受ける場合は「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を帳簿に記載する必要がある、ということになっていますので会計ソフトにて何らかの項目の選択をして「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」の記録がされるようにしましょう。
弥生会計では「請求書区分」という欄があり、免税事業者からの仕入の場合は「区分記載」を選択しましょう。
そして「仕入税額控除」という欄は、期間に応じて令和5年10月1日から令和8年9月30日までは「80%経過措置」を、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは「50%経過措置」を、令和11年10月1日以降は「控除不可」を選びましょうね。
弥生会計の場合、税抜経理の仮払消費税をそれぞれ本来の税額(標準税率10%か軽減税率8%)の80%、50%、0%で自動計算してくれますが、本来の税額で計算したい場合は[仕入税額控除割合適用前の金額を表示]にチェックを付けると、本来の税額(標準税率10%か軽減税率8%)での金額表示に切り替えることができます。
この点について、どちらで計算すべきかを説明すると長くなってしまうので省略しますが基本的にはチェックを付けないでおいた方が無難ですね。
少額特例を適用する場合
上記の少額特例を適用する場合は以下の手順で設定を変更しておきましょう。
メニューの[消費税設定]⇒[消費税設定]⇒[経過措置設定]の[インボイス少額特例の適用対象に該当する]にチェックを付けます。
(弥生会計のホームページより引用)
上記の設定をすると、1行に入力した金額が税込1万円未満の場合は「インボイス少額特例適用」と判断され、請求書区分が「区分記載」のとき、仕入税額控除は「100%」が表示されます。
原則課税でも支払ったインボイスを無視できる場合
原則課税でも支払ったインボイスを無視できる場合に該当するときはインボイス(適格請求書)が無いにもかかわらず仕入税額控除は100%できることになります。
弥生会計では「請求書区分」で「区分記載」を選択し、「仕入税額控除」で「100%」を選択しましょう。
フローチャート
上記のインボイス制度に対応した弥生会計の仕入税額控除の入力方法についてフローチャートにまとめてみましたのでご参考になさってください。
まとめ
だいぶ省略したつもりが結構な量の内容になってしまいましたね。
それだけインボイス制度の対応は大変ということです。
上記内容は厳密な扱いを現実的に省略した内容ですのでその点をご了承いただければ幸いです。
個人的な感覚では上記のような省略した取り扱いで問題になることは無いと考えていますが実際に制度が始まって税務調査の現場を見てみないと確実なことはいえないですね。