インボイス制度開始までいよいよ1か月ちょっとですね。
今回はインボイス制度開始後のリバースチャージ方式と登録国外事業者の扱いについてまとめてみたいと思います。
電気通信利用役務の提供について
まず、消費税の基本的な考え方ですが、リバースチャージ方式や登録国外事業者制度の対象になるのは「電気通信利用役務の提供」に該当する取引です。
電子書籍・音楽・広告の配信などの電気通信回線(インターネット等)を介して行われる役務の提供が「電気通信利用役務の提供」とされています。
具体例としてFacebook・Instagramの広告などはオンライン上で利用できるサービスなので「電気通信利用役務の提供」ということになります。
取引がとこで行われたかの判定に改正がありました
消費税は日本国内での消費に対して課される税金ですので国外で行われた取引には課税されません。
その取引が国内取引になるのか国外取引になるのかは様々な判断基準がありますが「電気通信利用役務の提供」については平成27年の消費税法改正前はサービスを提供する事業者(Facebook・Instagramのケースではメタ・プラットフォームズ社)の本店が国内にあるのか国外にあるのかで判定していました。
平成27年の消費税法改正前はFacebook・Instagramはメタ・プラットフォームズ社の本社が国外にあるため国外取引になり消費税は課税されていませんでした。
それが改正後は「電気通信利用役務の提供」はサービスの提供を受ける事業者の本社が国内にあるのか国外にあるのかで判定することになりましたので日本に本店のある企業がFacebook・Instagram広告を利用する場合は国内取引になり消費税が課税されることになりました。
リバースチャージ方式が基本
国外の事業者の「電気通信利用役務の提供」に日本の消費税が課税されることになりますが国外の事業者は日本に本社がありませんのでどのように消費税を申告納付すればよいのかという問題が生じます。
日本の国税側も日本に本社の無い国外事業者の消費税について申告漏れを指摘するのは大変ですよね。
そこで採用されたのがリバースチャージ方式です。
詳細な説明は省略しますがリバースチャージ方式ではサービスの提供を行った事業者、つまり課税売上が計上されて代金を受け取った事業者ではなく、サービスの提供を受けた事業者、代金を支払い課税仕入を計上する事業者が消費税を申告納付することになります。
国内事業者が課税売上の納付と課税仕入の控除を同時に申告するイメージですね。
消費者向けの取引は国外事業者が申告納税する
国外の事業者が国内に向けて「電気通信利用役務の提供」を行った場合、リバースチャージ方式で国内の「電気通信利用役務の提供」を受けた事業者が申告納税することが基本となるのですが、これは事業者向け取引、つまりBtoB取引に限っての取り扱いです。
消費者向け取引、つまりBtoC取引については「電気通信利用役務の提供」を受けた人が日本の消費者なので申告納税をしない(できない)ことになります。
結果的にBtoBであってもその取引が消費者も利用できるような内容の取引であれば消費者向け取引とされて「電気通信利用役務の提供」を受けた事業者はその取引にかかる消費税の申告納税をしなくてもいいことになりますが反面、支払った経費は消費税の仕入税額控除が適用できないことになります。
消費者向けの取引で仕入税額控除が適用できる場合
消費者向けの取引で仕入税額控除が制限される理由は消費税を預かった国外事業者が本当に日本に消費税を納税するかどうか不確かだからです。
ただ、例外的に消費者向け取引でも仕入税額控除が出来る場合があります。
それが、国外事業者が日本の国税庁に登録して、日本の消費者などから預かった消費税を日本に申告納税する「登録国外事業者」になっている場合です。
現在「登録国外事業者」になっている外国法人のリストは国税庁ホームページにアップされています。
「登録国外事業者」で検索すればすぐ出てきますよ。
もう一つ確認すべきは請求書に「課税資産の譲渡等を行った者が消費税を納める義務がある旨」の記載があるかです。
もう少し簡単に言うと「サービス提供業者が消費税の申告を行う」旨の記載です。
さらにざっくり言うと「当社が日本の消費税を納めます」ということです。
これらの確認作業を経て、初めて仕入税額控除が適用できるというわけです。
インボイス制度開始後の消費者向けの取引
インボイス制度開始後、まずは登録国外事業者制度が廃止になります。
そして、令和5年9月1日時点で登録国外事業者であって、「登録国外事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出していない事業者については、令和5年10月1日にインボイス制度の適格請求書発行事業者の登録を受けたものとみなされることになりました。
また、この措置により適格請求書発行事業者となった国外事業者については、令和5年10月1日から令和6年3月31日までの間は、請求書等に登録国外事業者名簿に記載された登録番号を記載することができることとされています。
なので実務的には令和5年10月1日から令和6年3月31日までの間に旧登録国外事業者から受け取った請求書にインボイス登録番号が記載されていなくてもインボイス公表サイトにて登録が確認できれば仕入税額控除を適用して問題ないことになります。
現在登録されている登録国外事業者については、こちらをご覧ください。
そして令和5年10月1日以降は登録国外事業者名簿の右から2列目の法人番号をインボイス公表サイトにて登録番号として入力して登録が確認できればOKですね。
登録が確認できない場合
インボイス公表サイトにて登録が確認できない場合は原則的な考え方に戻り、消費税の仕入税額控除が適用できないことになります。
ただしこの場合、令和5年10月1日以降は免税事業者等からの仕入の経過措置を適用できる余地が生じることになります。
8割控除、5割控除の経過措置
8割控除、5割控除の経過措置の適用を受けると請求書に記載された消費税のうち一定の割合の仕入税額控除が認められることになります。
経過措置を適用できる期間とその割合は、次のとおりです。
期間 | 割合 |
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
上記の期間であっても、現行で消費者向けの取引として仕入税額控除の適用外とされているものについては、上記経過措置の対象から除外されることになります(平成30年改正消令附則24)。
つまり、インボイス公表サイトにて登録が確認できない場合はこの経過措置は適用できず仕入税額控除適用不可ということですね。
少額特例の経過措置
一方で少額特例の経過措置の適用を受けることができる場合は仕入税額控除が可能になります。
少額特例とは基準期間(一般的には2期前)の課税売上高が1億円以下又は特定期間(一般的には前期の前半の半年間)の課税売上高が5千万円以下である場合、1万円未満の取引についてはインボイスの保存が不要で仕入税額控除を適用することができるというものです。
この場合は一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除を適用することができますので区分記載請求書等の保存も不要です。
ただし令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間限定の経過措置になりますのでご注意くださいね。
インボイス制度開始後のリバースチャージ対象取引
インボイス制度開始後も現在のリバースチャージ対象取引についてはインボイス制度の影響を受けません。
Facebook・Instagramの広告料は令和5年10月1日以降も引き続き「事業者向け電気通信利用役務の提供」に該当しリバースチャージ対象になります。
リバースチャージ対象取引に係る申告・納税義務も仕入税額控除の要件も変わりません。
なお、課税売上割合が95%以上の事業者や簡易課税制度が適用される事業者について、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされ、その課税期間の消費税の申告に含まないというリバースチャージ対象取引の全てを無かったことにする経過措置も継続になっています。
そして経過措置の適用が無い原則課税で課税売上割合が95%未満の事業者がリバースチャージ対象取引に係る申告と仕入税額控除を同時に行う場合の仕入税額控除についても引き続き一定の事項が記載された帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を受けることができることになります。(適格請求書(インボイス)の保存は不要)
まとめ
かなりややこしいですよね。
考え方は難しいですがざっくりと結論をいうと、
- 登録国外事業者制度は廃止されインボイス制度に移行
- リバースチャージ対象取引の扱いは変更なし(インボイス制度の対象外)
ということです。
そしてもう一つのポイントは消費者向けの取引で登録国外事業者になっていない取引先からの仕入について今までは仕入税額控除ができなかったものが令和5年10月1日以降は仕入税額控除ができる余地があるという点ですね。
残り1か月ちょっと、改めて国外事業者が適用しているサービスの利用状況を確認して整理しておきましょう!
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